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Lunatic gate-4


疾走する後身に迫る眩いライト。
静寂宿る空間に響くクラクション。
それに振り返ると、高級感溢れる車がナルトの横側へと止まり、重厚なドアが開かれた。

「乗って下さい。ナルト君!」

「…オ、オウ!」

鬼鮫の運転する車に乗り込み、病院へと向かう。その車中、ナルトはひたすら拳を固く握り締め、サスケの身を案じては居てもたってもいられずな様子だった。


「…オッサン。」

「はい、何でしょうか?」

「サスケは何であんな風になっちまったんだ?」

「…私もマダラ様から伺っただけですので詳しい事は解りませんが…、サスケ様は12時間以上もの間、眠ってしまわれるとトラウマを引き起こして、ああいった症状を起こしてしまうようです。」

「…それって、どうして?」

「……さあ。」

「さあ‥ってなんだよ!サスケの面倒みてんだろ、オッサンはさ!!」


「そうは言っても私はサスケ様の御家族でも後見人でもありません。ただの雇われ者ですからね。」
「でも!」

「教えてくれるかは分かりませんが、後で担当医に訊いてみましょう。」

「………うん。」


二人が病院に到着した時には、サスケは既に処置室に運ばれ手当てを受けている最中だった。

「処置が済みましたら御声を掛けますので、暫く此の場でお掛けになってお待ち下さい。」

総合受付の者に尋ねるとそう言われ、広くて小綺麗な待合ロビーの長椅子に腰掛ける。

命に別状は無いと聞かされてはいたが、ナルトの心配は尽きる事はなく。数分の間に時計を見やっては溜息を吐き、それを何度も繰り返しては、まだかまだかと責っ付くように片足を揺すったりと、落ち着き払って腰掛ける鬼鮫とは全く対照的な態度を見せていた。

「うちはさん。」

「はい。」

「終わったんか!」
受付窓口より声掛けた医療事務員へと我先にナルトが詰め寄る。

「サスケは、アイツは大丈夫なんか!」
「大丈夫だとは思いますが、念の為このまま入院となりますので手続きの方をお願いします。」

「入院!?、それって全然大丈夫じゃねーじゃんよ!!」

出され書面に文字を記してゆく鬼鮫の横でナルトが大声で問うと、後に現れた看護師が笑顔で「大丈夫。」とナルトの肩を叩いた。

「怪我はどれも浅かったからそんなに心配する事はないんだけど、早く治すための点滴をしたり、そうなった原因を調べ治す検査もしたいの。だから少しだけ入院して貰う事になったのよ。」

「そっか、そんならいいんだ。」

「もうそろそろ処置も終わると思うから、お部屋の用意が出来るまでもう少し待っててね。」

柔らかい口調と笑顔がナルトの不安を取り除いたようで、先ほどよりも緩やかな表情で看護師の言葉に頷いた。

しかしサスケの姿を見ない事には安心出来る筈がなく、再びの呼び掛けを今か今かと待ちわびる。

それから20分近くが経過した頃、漸くと入院部屋へ案内された。

以前入院した時と同じような作りの特別室ともなる病室は広く、応接間までもあり、設えたベッドも他とは違った物が用いられている。

「サスケ!?」

部屋に入るや否や、先にいた医療スタッフには目もくれず、深い眠りに陥っているサスケの傍へとナルトが急ぐ。

額を始め至る所に包帯が巻かれており、片腕には点滴の注射針が挿入されている姿が何とも痛々しいと、ナルトは目を細めた。

こうなった概要を詳細に問われた看護士へと告げる鬼鮫に、サスケが落ち着き払って目覚めるのは、明日早くても昼前だとカブトが述べる。

「今夜はこのままの眠った状態ですので、後は此方に任せて、今日はもう帰ってしまっても大丈夫ですよ。」

「そうですか。分かりました。では帰りましょうかね、ナルト君。」

「いやだ、帰るならオッサン一人で帰れってばよ。何もする事がなくったって、オレはココでサスケを見守っていたいんだ。」

「…では、ナルトくんはそうしてあげて下さい。私はこれで一旦失礼させて頂きます。」

カブトや他の者へ一礼して鬼鮫は部屋を去っていった。


「ナルトくんだよね。もう血は止まってるみたいだけど念のため、君の擦り傷も手当てしてあげるよ。」

「こんなの、どうって事ねーからいらねってばよ。それよりサスケは!!、アイツは本当に大丈夫なんかよ!」

「発作的な症状はもうこれで収ったから取り敢えずは大丈夫。怪我はいずれも浅いから一週間程度で治るだろうしね。まァ、心配は要らないさ。」

「なんで、サスケはあんな風になっちまったんだ?」

「サスケくんは事故で脳に損傷を受けて、記憶障害を被ったのは君も知ってるだろ?」

「うん。」

「あの事故で記憶を司る部分が壊れてしまい、彼の記憶装置には時間制限が出来てしまった。そしてその許容を過ぎた時、それまでの記憶は消え、心理的な印象で脳に焼き付いた光景が甦ったと共に、再びその当時の記憶へと戻されてしまうんだ。」

「何だかムズかしくてよくわかんねーや。」

「そうだなァ、簡単に例えると壊れたゲーム機みたいなものだよ。」

「何だそりゃ。」

「ある日のこと、ナルトくん、君は携帯型のゲームをしながら道を歩いていた。そのゲームに夢中となっていた君は視野は勿論、注意力も散漫としていたが為、足下にあった石に躓き、ゲーム機を放り投げるようにして落っことしてしまった。幸い怪我は大した事なく済んだんだけど、どうやらゲーム機は壊れてしまったようで画面がフリーズし全く操作が効かなくなってしまった。仕方なく一旦、強制的にゲーム機本体の電源を切り、徒歩に専念した。そして帰宅してから再びゲームを立ち上げると、画面こそは通常の仕様だったので、君は取りあえずホッとする。しかし全てのセーブデータが飛んでしまっていて、今度は酷くガッカリとした。でもそれ以外に問題はないようだったから、最初からになちゃったけど、気を取り直して君はゲームを進めていった。衝撃から見えないバグが出来てしまったのも知らずにね。ある程度、プレイして眠くなった君は、続きはまた明日…とセーブをし、それからゲーム機の電源を落とした。
次の日の夜、12時間以上電源を切ってたゲーム機のスイッチを入れ、昨日セーブした所からまたゲームを続けようとした立ち上げると、眠る前に間違いなくした筈のセーブデータは消え、また落とした時と同じ状態に。明らかにこれは故障だと修理を依頼しに行く。すると『これはメモリの損傷で、12時間という一定の時間内にセーブをしないと自動的に内部でメモリリセットを行ってしまうという修復不可能なバグです。しかし、12時間以内にゲームを立ち上げれば問題なくゲームもセーブもちゃんと出来ますよ。』と言われ、君はそれを深く留意した。
そう、この“壊れたゲーム機”こそが現在のサスケくんの状態だよ。長くなってしまったけど、わかってくれたかな?」

「わかった!すっげーよくわかったってばよ!!」

「それなら良かったよ。」

「カブト博士、お電話が入っておりますが…。」

「ああ、今行く。それじゃ撲はこれで。」

扉を閉めるカブトの背中を見送り、サスケが眠るベッドの傍へと椅子を持ち出し腰掛ける。

そして緩慢に落ちてゆく薬液の滴と、脳細胞の活動に伴って発生する脳電流を計測する機械が示す波形を見回り、確かめるかに静かな寝息に耳を立て、聞き澄ましてはホッと胸を撫で下ろした。



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