[携帯モード] [URL送信]
Lunatic gate-1

「…――父‥さん、母さん……」


開かれた部屋は月灯りしかない暗いがりだった。
小さなサイドテーブルはベランダで引っ繰り返っており。窓は無惨に割れ、鋭いガラスの破片は種類豊富な画材道具ともに広い洋間に散乱していた。窓際に置いてある画架には、ほぼ完成された作品があったが、外の景色を眺めてるかに部屋側へは背向けた状態で置かれていた為、ナルトや鬼鮫の目には止まる事はなかった。
否、例え此方正面に向けてあったとしても、確実に矛先が向けるのは、破れた寝間着の所々から血液を筋垂らし。それをも廃らせる程の鮮血を額より流して、紅色の深泥に染め付けた床を這いずり、泣きじゃくる少年の姿のみだっただろう。

「なっ、何してんだ!てめーは!!」

尋常ではないサスケの姿を目にして咄嗟に近寄ったナルトが、血塗られたペインティングナイフを深くと握り締める彼の手首を取り押さえるようにして、背後より羽交い締めにした。

「離せっ!兄さん、離してくれッ!」

「兄…さん?バカ!!オレはお前の兄さんじゃねってば!」


「兄さんだろ?何でそんな嘘をつく?兄さんだけは信じられたってのに…」

「………――嘘じゃねって。」

「何で兄さんがそんな見えすいた嘘をつくのかは分かんねーが、俺なんかに構ってねーで早く助けてよ!!、父さんと母さんが大変なんだっ!!」

「何言ってんだってばよ!いいか、よく聞け、お前の父ちゃんも、母ちゃんも、兄ちゃんも、もうココにはいねーんだ!」

「俺の家族が居ないってのは…――つまりどういう事だ?」

一瞬、静かな口調に変わり、サスケの動きが止まったのをナルトは善かれと思うよりも、言い知れぬ予感の前兆と捉え、更に身構えた。
そして瞳を翳らせながら、下唇を噛み、長らくの間をおいた。

「……――、」

「何だよ。黙ってちゃあ、分かんねーだろうが…。ああ゛!?」

「………サスケ、…お前の父ちゃんや母ちゃん、それに兄ちゃんは……、もう…――」

「もう…、何だよ?」

「ここには居ねーんだ…。」

「居ないって、まだ車の中に居るじゃねーか!!父さんも母さんも!」

勢い激しくと暴れ出したサスケは、ナルトを振り解いて、硝子の破片が飛び散ったベランダの方向を力強く指差した。
勿論、そこには車なども無ければ、サスケの両親も居ない。

「なあ、どう考えたって、俺一人じゃ無理だろ?だから手伝ってくれよ…。」

額から溢れ出る鮮血が洋服に滴り、染み渡る。
切実そうにナルトの足元にしがみついて縋るサスケは自分の怪我なども把握してはいない様子で跪いている。
ナルトは、そんなサスケに現実を把握させようとの思いで思案するも、何も浮かばず。
ただ、自分に情けなさを感じて拳を強く握り、奥歯を噛み締めてサスケの必死の形相を切なげに見詰めていた。

鬼鮫は予期した事を目の当たりにして、逆に冷静さを取り戻していた。
例え、自分が声を荒げて情感に流された行動を取ったとしても、サスケが決して落ち着きを戻す事は無いと見限っていたからだ。
否、それだけは無い。
ナルトと一緒に激情的にサスケを構うよりも、サスケがどういった言動を取り、どういった状況で何処にどれだけ傷を負ったか、そういう現状を出来るだけ見極め、医師に伝えるのが自分の役目だと心しての事もあった。
そして、いざとなった時に己がサスケの行動を阻止すれば良いと考え、サスケから片時も眼を離さずにいたのだった。


「頼む、早くしねーと車が海に沈んじまう…。」

「わかった。オレが助けてやっから、お前はココで大人しくしてろ。」

「一人で大丈夫なのか?」

「ああ、こんなのオレ一人で十分だってばよ。」

ナルトはサスケに合わせて一芝居打とうと買って出る。今にもサスケがベランダに出て、幻を追い、その外下に広がる海原へと身を投げ入れる事を酷く恐れたからだった。
忽然と現実を知らせるよりも、徐々に段階を踏んで知らせた方がサスケも此以上の混乱を招かなくて済むとの判断である。この事が凶となるかはたまた吉となるかは現時点では解らないが、それが最良だとして、行き先任せにサスケが示した“車がある”とされる方位へと歩き出す。足場に散乱する硝子の破片やら絵画の道具などは一切、気にせず、ただひたすらに。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!