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お助けマン参上!

「!!?」

反射的に引き戸側を見やると、片手に藤籠を抱え持つナルトが、憤怒に満ちた形相で立ちはだかっていた。

「なにやってんだってばよ、…バアちゃん。」


「なにって、これはその……ーー、そう診察だ、診察!」


「誤魔化すんじゃねー…、医者まで裸んなる診察なんてあるわきゃねーだろがッ!」

「ははッ…」

「そうだ、バアちゃん、エロ仙人が呼んでたぜ。部屋に来いってさ。」

「そ、そうか。分かった。すぐ行く。」
バアちゃんと呼ばれた女は、ナルトの憤慨した鋭い視線を浴びる最中、そそくさと服を着て身を繕い。部屋を出ていく寸前に此方へと振り向き、何かを確認するかに俺の眼を再びじっと見つめてきた。

「ーー…単なる電灯での反射だったか。」

「何がだ?」

「…いや、何でも無い。――…あんな事をしてすまなかったな。安静にしてれば、その熱も怠さも直に引く。……今夜はしっかり養生しとけ。」


何が『安静に』だ、ふざけやがって…。

謝罪を兼ねて、容態を把握したような尤もらしい事を告げ、その場から不埒な事をした輩が立ち去ると、途轍もない安堵に見舞われるも、俺の眼を辛辣そうに眺めていた事が少し気掛かりとなり、衣服を取り繕う事もせずに暫く漠然としていた。

「サスケに手ェだすなって言ったのによ。俺が風呂入って色々してた間に……。まったく、油断も隙もねーってばよ。」

「……俺の眼、何か可笑しいか?」

「ん?…いんや別に、眼はフツーだけど?」

「…そうか。」

「それよか、早くパンツ履けって。」

同性なのに顔を赤らめ、俺を横目でチラリと見やっては視線を逸らしたナルトを不可解に思い、アイツがそうした切っ掛けとなった場所へと眼を向けると、普通じゃない状態になりつつあるソコの形容に気が付き。急激に羞恥を感じて慌てて下着を身に付けた。
「パンツ、履いたんか?」

「あ、…ああ。」

そう返事した途端に向き直り、手にしていた荷を床へと置き、布団へ上がり込んでは袖が通ったままでだらしなく前身をはだいた浴衣を一気に剥ぎ下ろした。

「!!?」

そして念入りに晒した肌をあちらこちらと窺う様子で眺め、ほぉ〜ッと大袈裟な動作で長々とした息を吐いた。

「よかったァ。ヤられてなくて…。」

「…どういう事だ?」

「うん、あのな。ココじゃあさ、夜這いしたヤツが、エッチした相手にチューマークをつけるってな仕来りっつーか、決まりがあってさ。」

「チュー…マーク?」

「キスマークってヤツだってばよ。エッチしたヤツの体のどっかしらに必ずつけんだ。“コイツは自分のだ”ってな風にさ。そんで恋人とか夫婦だとかな好きなヤツ同士でエッチした場合は、お互いに…って。」

なるほど、動物が縄張りを示すマーキングと同じようなもんか。
しかし、独特と言うか、変わった風習だな。

「もし、目立つ場所にそんなもんを付けられちまったら、どうすんだよ?」

「う〜ん、みんな意外に堂々としてっけど…、“大人の証”ってな感じで。」

「…まあ、確かにガキじゃ、デキねー事だが…」

親の目にでも触れたら、大事(おおごと)だろうよ。
いくら此処じゃ許されようと、親からしたら流石に許せない問題だ。特にうちのような厳格な家なら尚更だろう…。

毛頭、ヤらせる気もヤる気もねーが、さっきの状態は、かなり危なかったか…。

「あ!、そうだった、コレ、汗かいただろうからって母ちゃんが…」

言われて見れば確かに、汗で肌も浴衣も湿っていた。
早速、思い出したかにナルトが籠から差し出した新しい浴衣へと袖を通すと、やけに布地が暖かかった。

「あとコレ!水よか水分補給できっから飲んどけよ。冷えてっし、うめーぞ!」

付け足して手渡された吸い口付きの水筒の蓋を開け、少しずつ口に含む。
冷たいスポーツ飲料が乾いた喉に染み渡って心地良い。

「飲んだら、寝ろって。」

口を拳で拭い終えるのを見計って半身を支え、ゆっくりと床へと招き、それから無造作に剥がされた掛け布団を丁寧に直して、何かを足元に潜らせた。

「足元が暖かいが…、これはなんだ?」
「湯たんぽ、だってばよ。」

「何だそれは?」

「金属で出来た平べったい水筒のデッカイ版みてーなのが、洗濯板みてーにうねうねした形をしてて、そん中にアッチィお湯入れて、そんでそれを布団ん中に入れっと足元から温まるってなヤツ。」

「…?、…洗濯板ってなんだ?」

「洗濯板っつーのはな、こう波みてーにうねうねしてて……って、お前ってば、めんどクセーのな!!」

身振り手振りを使って説明してくれたが、今一つ分かりはしなかった。
その内ナルトはカリカリと両手で頭を貪り掻いた。

「悪かったな、面倒臭くて…。だが、お前が明確に説明しないのがいけない。」

「何だと!オレが悪いってのかよ!」

「いや、そこまでは言ってない。」

「んじゃあ…、昔っから布団ん中で使う足元温め器っつったら、わかってくれっか?」

「ああ、…なるほどな。」

「何だ、細かく教えてやって損したってばよ。」

はあ〜…と溜め息を吐き立ち上がるとナルトは押し入れを乱暴に開け、布団一式を取り出して廊下側に面した場所へ所狭しとそれを雑に敷いた。

「ああは言ったけど、物珍しさにいつまた襲ってくっとも限んねーかんな。だからオレもコッチで一緒に横んならせて貰うぜ。」

「………。」

あんな目にあってもまだ懲りちゃねーのってのかよ。あの女……。

「もし何かあってもオレがお前を守ってやっから、安心してグッスリ眠れってばよ!」

そう言ってナルトは機嫌を直したかに歯を剥き出してニィと笑い、胸板を一つドンと頼もし気に叩いた。
お前みたいな力のなさそうなチビに守って貰うほど、そんなに俺は柔じゃねーんだが……、まあいいか。
コイツと居るだけで何故か不思議と安心するしな。

そんな思いを携え、フッと笑んで瞼を閉じた時、「うりゃ!」と突発的に掛け声を発して、俺の額にペタリと何かを貼り付けてきた。

「熱冷ましシートだってばよ。冷蔵庫に入れてたから、気持ちいいだろ?」

「…ああ。」

「そんじゃ、しっかり見張っててやっかんな!オレに任せて安心してお前はとっとと眠れって。ホントは話してんのも結構キツイだろ?具合わりィのにあんな事もあって騒いでたみてーだしさ。」

「…そうだな。悪いが、そうさせて貰う。」

「じゃっ、おやすみィ!」

就寝の挨拶を告げ、布団を潜り、廊下側へと視線を張るような体勢を取ると、ナルトは足音に耳を澄ませるのか口を噤んだ。


「………ナルト。」

「……――。」


声を掛けるも返事すらしない。
それほど神経を集中させてるってのか?
何もそこまで張り詰めなくてもいいだろうに。

「お前、何でそんなに…」

そう言いかけた刹那、ナルトは両手を幼子みたいに掲げ、ゴロンと寝返りを打った。

「!?」

「なあ、サスケ、うめーだろ?ここの味噌チャーシュー大盛のラーメン…」

「ラーメン?」

そういや明日食いに行こうとかほざいてたか。

「うわァ!!てめー何勝手にオレのチャーシュー取ってんだってばよ!」
笑顔を放ったかと思えばジタバタと暴れ、布団を蹴飛ばす。

何が“見張ってるから安心しろ”だ?
安心して直ぐさま眠っちまったのはお前の方じゃねーか。

「…ったく、仕方ねー野郎だぜ。」

ヤレヤレ…と呆れながらに布団を掛け直したのだが、何故か俺はその時、穏やかに笑っていた。


そして、さっき伝えたかった事をこの場を利用して伝えたく、健やかな寝息へと近寄った。

「……ありがとう。」

全てにおいて、俺を助けてくれた寝顔に向けて素直な意を囁くと、無意識ながらに何処となく照れ臭そうな笑顔が放たれた。


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