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なんだろな?(R15)




「……‥――」

目覚めれば、何の気配も感じられない深い闇の中だった。
温室のような暖かさ漂う不思議な空間。しかし、その温暖さを相容れない常闇が果てなくと続いている…。

「ここは…一体――」

未だ倦怠を帯びた身体が重苦しい。

「う…っ…」

目眩にふらつきながら身を奮い立たせたのはいいが、思ったようには動けず。
それでも…と、山間の夜道を迷い歩いていた時よりも暗鬱とした闇に挑むが如く、覚束ない足取りで歩き出す。


行けども続く暗黒のすがら。
僅かでも進んでるのかさえ知る事が出来ない景色。
そんな最中、真っ向から重圧を纏った“何か”を感じ取り、粟立ったように鼓動がざわめき出して立ち止まる。

「…良く来たな。待ち詫びたぞ…」

「誰だ。」

警戒しつつ、地響くような低音を放った不穏な影へと眼を凝らす。
しかし、その姿を垣間見る事は一切出来ず、威嚇するかに身構える。

「我を糧に火は燃ゆる…――何時の世も、その意思を伝えながらに……」

「何だ?、一体…」

「…一切の拘りを捨て己が儘とせよ。然すれば御霊は救われようぞ…」

「さっきから訳の分からねー事ばかりほざきやがって…。戯言なら大概にして、いい加減姿を現したらどうだ?」

「…其の威勢。…御前ならば、我等が呪縛を解き放ちてくれるやも知れん……――期待しておこう。」

そう言い残したのを皮切りに、そいつの気配は疾風の如くと消え失せ、常闇の中にまた、一人取り残されて立ち尽くしていた。

……あの影なる声は、天叢雲剣を秘められた“何か”がある事を俺に伝えるために現れたのだろうか?
“我ら”とは、三種の神器である“玉”“鏡”“剣”を著しての喩えなのか?
だとすれば、剣の他に二つの神器が何処かにあり、それを“呪縛”に喩え、捜し出して欲しいと俺に願った…。
そう考えたとしたら、非現実的にも思えるが、あの影なる声は宝剣に共鳴した何者かによるもの…――

何せ、天叢雲剣自体が実在すること事態が非現実的なのだから、有り得るかもな…。

忽然として渡された意味不明なる伝言を裏付けようと、確執も理論も全くなしに分析して追究しては自嘲する。
まるで御伽噺だな…と。

それから寸分もしない内、唸るような地響きが聴こえ、聴器を凝らした。
間もなく、立ち止めた足場が大きくと揺らぐ…――

「なっ!!何だ?」

踏みしめた地より、棘(おどろ)とした巨大な樹の幹が突出し。それ等は無造作に撓(しな)る根を張り巡らせては俺の足首に絡み付いた。

「うッ!?」

その繁殖力の凄まじさに比例した力にズルズルと地へ引き摺り込まれ。両手にまでも根に捕われる始末。

拘束を強いられた挙げ句、なす術なくと背中を根上に預けた格好となった俺は、見る見るうちに枝を分け伸ばして育ちゆく黒々とした巨木を見上げ、緊迫に身を詰める。
そうした矢先、分岐した小枝が枝垂れ、触手のようにしな打ちながら、その枝先を鋭く尖らせた。

“刺される!”

殺傷迫る数本の切っ先に、生命の危機を感じれば、咄嗟的にそれらを避けようと、頭を擡げ、身を捩じる。

だが、奇妙な動作をする枝の群れは、俺の衣服を散り散りと引き裂いて前身頃をはだき、素肌を露呈させたと同時、危惧した動作は一切見せずに後退していった。

一命は取り留めたと安堵の息を一つ洩らした刹那、野晒しとなった下肢に著しい滑り気を帯びた生物が付着した。

「!!?」

水綿のような骨格のない柔らかな質感を無防備となっている自身へと這い摺らせ、滴りを伸ばしてはつらつらと先端まで行き交い。それから雁頭の丸みに沿って幾重もの円を描くように徘徊する。

――もしも、この正体不明な生物が意図を以て、こんな箇所をうろついているとしたら…、一体どんな目的があってなのか?

そんな疑問を掲げるも、皆目見当もつきやせず。
とにかく不気味で厭ましい感触から逸早く逃れたく、のた打つかに深く腰を捩って、不快なる生物を取り払おうと試みる。しかし、そうした動作を構う事なしに、そいつは生ぬるい弾圧を一辺倒になすりつけ、萎縮する双嚢にまで滑液を塗りたくっていた。

「ぅ――…ぐッ!」

自由を奪い、視界を奪う忌々しい暗闇と同様、屈辱的な行為を増強してゆく軟体から与えられた不快は嫌悪を通り越して、激しい怒りへと移り変わる。
眉間を狭め、走った血の気のままに、身委ねられた常闇ごと打破するべきと彷彿すれば、俺の内深い所に留まった箍のようなものが外れ、眼孔は増幅した。

そうした時、真っ向から朧々とした光が現れる。
頼りはないが、どす黒い闇を解放してくれたそれに従うかに、ぼんやりとした蛍火のような光の向こう側を見据えては、確かに存在する其方側の景色を把握しようと刮目した。

「…………。」

垣間見えた古めかしい木目の板張り。
そこから吊り提がる茜空のような橙灯が、此処が住居を構えた空間である事を識らせ。更に、背中を預けているのは、畝(うね)った樹の根などじゃなく、寝床だとも識れる。

そうか…、
さっきまでの出来事は、全て夢……―

そう判断して安堵したのも束の間。
取り戻した意識によって急激に見舞われた息苦しさと酷い悪寒に今度は翻弄された。
倦怠と身動きならない状況は、夢の中で拘束されてた状態と何ら代わり映えはしないように思われ。覇気のない性器に纏う不愉快な質感もまた相変わらず……

「………っ‥」

聴器を掠めるピチャリ‥とした水音が下肢の施しの生々しさを伝えている。

これまでに体感した事がなかったからだろうか?
こんな感覚ばかりが鮮明に伝わるのは……

脚間に滞在する人の気配から、誰かが何かをしてるのが分かる。

辛うじて首を擡げ、そこで良からぬ行為をする者を見極めようと、重たげな眼差しを向ける。

すると、橙の灯に照らされる亜麻色に似た金糸が下肢に落ち、水跳ねる音を響かせていた。


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あきゅろす。
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