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開花の実

和やかでいて堅苦しさのない夕餉の場。食卓に上った料理は、根菜類の煮物に滑子(なめこ)の味噌汁、焼き魚に山菜、豚肉の生姜焼きに新香…といった、決して豪華ではない食材だったが、どれもこれも新鮮でいて素朴な味がした。
てんこ盛りだった茶碗も、いつのまにか米粒一つ残さずに平らげてしまうほど、ガス釜で炊いた米も美味かった。

「母ちゃん、お代わりィ!」

ナルトの奴、まだ食う気かよ。

「はいはい、サスケくんは?」

「いや、俺はもう…」

「クシナ、アレは出してやらないのか?」

「あっ!そうだったってばね!」

金髪女に問われてナルトの母親がバッと慌ただしく席を立ち、台所へと向かう。

「なっ!サスケにアレ食わすんかよ!」

アレとは、もしかしたらナルトの母親が食べた事があるかどうか訊ねてきた“開花の実”というものの事を示唆してるのか?

「むかーしからの仕来たりじゃからのう。」

「別に出さなくったって、いいんじゃねーかな?明日には帰っちまうワケだし…」

「唯一この里ならではの特産品なんだ、せっかくだから食べて貰ってもいいんじゃないか?」

「うん…、そうだけど、…でも――」

何だ?
ナルトがそんなツラして心配するほど、そいつは不味いものなのか?


「さあ、どうぞ。この里でしか食べられない開花の実だってばね。」

台所から戻って来たナルトの母親から、差し出された小皿には、小さくて赤いクコの実のような物がいくつか盛られていた。

ナルトの物言いは気にはなったが、この地でしか味わえない特産品というのに惹かれ、安易に口へと運ぶ。
思ったよりも固さのあるその実を噛み砕くと、木苺のような甘酸っぱさが口中に広がった。

「どう?他のお客さんは皆、美味しいって喜んでくれたけど。」

「…確かに――……つぅ!」

「ど、どした!サスケ!どっか痛ェんか!!」

「ぐぅッ!!」

ズキン――とした激痛が脳髄を走り抜け、眼球全体に強い圧迫感を受け、堪ら切れずにその場で蹲ると、即座に丸まった背中にナルトの手が回った。

「サスケェ!!」

強張る身体を支えながら、心配そうに背中をさするナルトの小さな手が辛うじて俺の意識を保たせてくれている。


「イッ、…イルカ先生ェ、サスケの兄ちゃん、死んじゃうんか…コレェ。」

「大丈夫、綱手様もいるし、死んだりしないからな?そうだ、一緒に先生の部屋でテレビでも観ようか?」
どうやら、イルカ先生とか言う奴と木の葉丸は居間から出たようだ。


「バアちゃん!!、黙って見てねーで、早くサスケを何とかしろってばよ!!」

「大丈夫だ、すぐに治まる。」

「でも、バアちゃん!こんなに苦しがってんだぞ!!」

「…それほど信頼出来るって事だってばね。」

「なっ!!、母ちゃんまでなに言ってんだよ!!」

「時期が時期だしのォ。これは柱間様が与えてくれた恵みかも知れんぞ?」

「やい!エロ仙人!サスケはまだオレとタメなんだぞ!…だからまだ早ェだろがっ!!」

「此処じゃあ問題ないじゃろ。」

「ダメだ、ダメ!!サスケに何かしたら、絶対ェ許さねーかんなッ!」

ナルトが俺を抱きかかて、何か言い争っるようだが、何を話してるのかすら、痛みに翻弄されちまって聞き取れやしない。意識を保つのがやっとの状態だ。

「ぐああッ!!」

脳内を蝕む鈍痛に加え、無数の針が眼球に突き刺さったかと錯覚するほどの尋常じゃない激痛に身が仰け反る。ナルトにこれ以上、心配をかけさせたくない一心から我慢していたが、そろそろ限界か。

「サスケェ!!」


俺の名を叫ぶナルトの悲痛な声が耳通るも儘ならず。
朦朧とする最中、どす黒い暗闇へと引き摺られるような感覚で意識が遠退いた…




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