ご飯ですよ!
階下へと連れられ、玄関と対面する格子戸を乱暴に開けたナルトの後から敷居を跨ぐと、食堂兼居間と思えるだだっ広い和室の中心には大人数が悠々と入れる炬燵が置いてあり、それを取り囲んで食事をする人々の姿が目に宿った。
ざっと見回して、ナルトの母親、さっき風呂場であったナルトの弟の木の葉丸、それとナルトの祖父と思える歌舞伎芝居に出て来そうな初老の親父に、ナルトの母親の姉と見られる派手な金髪女。鼻に横傷がある長髪を束ねた男はナルトの母親の弟なのだろう。まだ仕事から帰って来てないのか姿はないが、ナルトの父親を入れて、おそらくナルトの家族は全部で7人。現在にしちゃあ珍しい大家族だ。
「サスケは俺の隣な!」
言われなくとも用意された膳を見れば分かり、余儀なく其処へと正座する。
「…!?」
違和感を感じて眉間を寄せると、ナルトが俺の顔を覗き見た。
「ん?、どした?」
「…いや、何でもねーが、さっきの、部屋にあった炬燵とは違う感じがしてな。」
「ああ、コッチのは堀炬燵ってヤツだかんな。」
「堀…炬燵?」
「何だお前、堀炬燵も知んねーんか?……ホラ、こーゆーヤツ。」
ガバッとナルトが炬燵布団を捲り上げ、中を覗くと炬燵台の大きさに見合った長方形の縁枠下に同じ形穴が広くと開いており、椅子に腰かけるような形で皆、其処へと足を下ろして、真ん中深くに置かれた装置で暖を取っていた様子が見受けられた。
「堀炬燵はこうやって座るんだってばよ。」
正座を崩して腰掛けると二階の部屋より暖かく、また姿勢も楽に思えた。
「オレは知んねーけど、昔はココ、囲炉裏だったんだってさ。」
なるほどな。
囲炉裏というのも実際、見た事はないが、それを無駄なく生かして炬燵を取り付けた訳か。
こうした知恵は雪国ならではのものなのだろうな。
「さあ、田舎料理しかないけど、あったかいうちにどうぞ。」
「………――。」
ナルトに似た明るい笑顔で山盛りの白米が装われた茶碗を手渡され、無意識に湯気立つそれに目を奪われてしまい、言葉を失っていた。
「んじゃ、いっただきま〜す!」
「…あ、ああ、…い、いただきます。」
気後れしつつ、両手を合わせ一礼する。普段と変わらぬ膳への挨拶だ。
顔を上げて箸を持ち直すと、大人一同によるキラキラとした眼差しが一斉に注がれていた。
「……なっ!!」
な、なんだ一体。
何か可笑しな事をしちまったのか?
「ほぉ〜、随分と行儀いいもんじゃの!」
「“食する”という事に対しての心構えを普段から弁えているのだろう。」
「偉いなァ〜、キミ!」
「ホント感心するってばね。」
「………――。」
我が家じゃ当たり前の礼節は、どこの家庭でも一緒だと思っていたが、こうも讃えられ注目されると何だか妙に気恥ずかしい。
外食もなければ、余所の家で飯を食う事もねーから今まで知らなかったが、これから余所で飯を食う時は、ナルトのように言葉のみにしておいた方が無難のようだ。
変に意識しちまってるからか何だか皆と顔を合わせにくい。
なるべく下を向いて食事をするか。
「見かけない顔だが学校の友達か?」
ナルトと同じ金髪の女がナルトへそう訊ねた。
「違ェってばよ、ばーちゃん。サスケはお客さんだってば。」
ばーちゃん?
派手な色に髪を染めてる所為か俺にはどう見てもそんな風に呼ばれる年齢には見えないが……。
「サスケか!良い名じゃのう!忍みたいで!」
「だろ、自来也のおっちゃん!さっきオレも忍者みたいでカッコイイって言ったんだぞ、コレ!なあ、サスケの兄ちゃん!」自来也と言う名も十分、忍者みてーじゃねェか。
「歳はナルトと同じくらいかな?」
鼻傷のある男が俺にそう訊ねた。
コイツは見るからに人柄の良さそうだ。
「…13だ。」
「じゃあ新学期から中学二年生か。」
「…ああ。」
「ナルトの兄ちゃんとタメだコレ!」
「短い間だけど、ナルトと仲良くしてあげてね、サスケくん。」
「もうオレ達、バッチリなかよしの親友だってばよ!母ちゃん。」
親友…?
親友ってこんな簡単になれるもんなのか?
「そうか!お前にも親友が出来たか!よかったなァ、ナルト。」
「へへッ、ってなワケで明日はサスケにもラーメン奢ってやってな、イルカ先生!」
先生?学校の先生なのか?この鼻傷野郎は。
「よし、久しぶりに一楽でも行くかァ。」
「やったァ!」
大喜びするナルトには悪いが……
「いや、遠慮しておく…。」
「えッ!!何で!」
「朝のバスに乗らなきゃならないからな…。」
「あ…、そっか。」
ナルトは肩をガクンと落として酷く消沈していた。
そして唇を噛み締め、ガツガツと食って動きを止め、深い溜め息を吐き出した。さっきまでテレビを観ながら、木の葉丸と笑い合っていたのにな。
それが犯罪めいた事をしたように思え、酷く気になってしまい、食事が喉を通らくなってしまっていた。
「オレが町まで車で送って行くよ。それなら問題ないだろ?」
「いや、途中で用があるから…」
「ん?どこか寄るのか?別にオレは構わないぞ?どこに行くんだ?」
「………暁雲村――」
「南賀ノ神社だってばよ!イルカ先生、寄ってくれんのか!!?」
「南賀ノ神社かぁ、別にオレはいいけど…」
「…南賀ノ神社にどんな用があるんだ?」
イルカ先生と呼ばれた男以外の大人達が急に神妙な面持ちに変わり、俺を凝視した。
その重んじた雰囲気からして、ただ事ではない何かを感じ、何らかの密接した関連がこの家や群落にあるのでは…と瞬時に察知し、それを悟られないよう、何食わぬ顔を皆に向けた。
「春休みの課題でな…」
「どんな…課題だってばね?」
それまで明るい笑顔を絶やさずにいたナルトの母親が真摯な眼差しで問いてきた。
「…史実に隠された逸話について…だ。歴史ブームとやらにあやかって出されたのだと思うが……」
「わかるぞ、ワシも史実を元にした物語を書けと催促されてるからのぅ…。ワシは恋愛物専門だから困ってるんじゃが…」
「自来也さまは小説家なんだってばね。」
「そそ、エロ仙人はつまんねーもんばっか書いてるんだってばよ!」
「つまんなくはないぞ!現にイチャパラシリーズは映画化にもなったベストセラじゃしのォ!」
「あ!サスケは小説とか読むんだよな!」
「そうか!感心じゃな!じゃあワシの本も機会があれば是非、読んどいてくれ!」
「自来也さま、この子にはまだ早いかと…」
「何じゃイルカ!13ともなれば年頃ゆえ興味はあるじゃろ、男と女のアレとかソレに…、のう、サスケ!」
アレとかソレとは何だ?
全くもってわからねェ。
まあ、いい。話が逸れて場の雰囲気が軽くなったからな。
再びテレビの音声とそれを観ては談笑し会話が弾むといった賑やかな食事風景へと移り、そうなった事で俺への追及も止んだ。
その事が、他人との馴れ合いを苦手とする俺にとって何よりも幸いだった。
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