ようこそここへ
信号ひとつない道を時速50Kmとして走る事、十数分。すぐとは言われるも、実際は相当な距離を過ぎた事だろう。
道幅は二車線となり、外灯もチラホラとあるが、民家などは未だ一向に見当たらない。人が住んでいる気配すらも当然感じはせず。ただ頬に当たる風の冷たさに背中を丸めていた。
前にいる奴の衣服を掴む手も悴み、感覚を失いかける。それでも確りと防寒着を握り締めていた。
「さみィだろ?遠慮なんかしてねーで、もっと引っ付けっての。」
そうは言われても、女なんかにしがみつく訳にはいかない。
それより、まだなのか…と気が急くばかりだ。
そんな最中、急にバイクが止まる。
「ホラ、ここがバス停だってばよ。」
そう指さす方向へと見向くと、ライトの光に照らされて“里入口”との文字が読み取れた。そして、よく見れば、樹々の間に砂利道が続いてる事にも気が付く。
「砂利道の先にある橋渡ったら、すぐだから!」
もう一つ分かった事がある。コイツのすぐは当てにならねェって事だ。
「フン、どうだか…」
「ああ゛?何か言ったか?」
「いや…。」
長細い橋を渡り切り、砂利道を少し走ると漸く集落と認識出来る民家の灯りが目についた。
こぢんまりとした感じが人口密度のなさを知らせている。
「着いたってばよ。」
先に降りろとの合図に従い、荷台を離れ。バイクを止め降り、ヘルメットを取った、ソイツの姿を見るや否や、異国のような髪色や瞳の色に思わず眼を丸めてしまっていた。
こんな田舎で金髪にカラコンとは、相当な目立ちたがり屋なのだと勝手な判断をつける。
「母ちゃん、ただいまー!!」
「お帰り。」
「はい、これ頼まれたモン。」
「お使いご苦労様、…って、あら、見かけない顔だけどナルトのお友達?」
コイツの母親は訛っちゃいないようだ。
しかし、どう見ても俺が高校生に見える訳がないだろうよ。確かにコイツよりは背はあるが……
「コイツな、道に迷っちまって泊まるトコもねーみてェでさ。だからウチに連れてきたんだってばよ。」
「そうなの。じゃあ、お客さんなのね?」
「うん。」
「あの、大した持て成しは出来ないけど、ゆっくりしてってくださいね。」
暖かい笑顔に迎えられ靴を脱ぐと、ナルトの案内で日本家屋特有の広い廊下を渡り、二階の一室へと通された。
「この部屋、使ってな。」
「……。」
清潔感はあるが、古めかしい畳と壁。
紐でのみ点灯や消灯を行う四角い電灯。
液晶ではないテレビ。エアコンはなく円筒形の石油ストーブ。それと小さく使いこなされたコタツ。骨董品のような背の低い和ダンス。
今時、珍しい設えが揃った部屋だ。
「ストーブ点けっから窓開けんな。寒ィからさ、コタツ入っとけって。」
荷物を下ろすと、マッチを擦り付け、慣れた手付きで火を入れるナルトの姿を促されたコタツに入りながらに眺めていた。
「お前、名前なんてーの?」
「お前は?」
「オレはナルト、うずまきナルトだってばよ!」
「うち……」
名字を言いかけた時、兄の言葉を思い出した。
「サスケ。お前に一つだけ忠告しておく。」
「何?、兄さん。」
「もし、木の葉に住む者に出逢い、名を訊かれたら、うちはの姓は決して名乗るな…。」
「何故?」
「理由はオレの口からは言えないが、直に知るだろう。」
「………。」
「うち…何だってばよ?」
取り敢えず、イタチの忠告通りにしておくか。
「内村サスケだ。」
「サスケ…か、何かお前に似合った名前だな!どっから来たんだ?東京か?」
「…ああ。」
「いいなァ、オレも一度でいいから行ってみてー!東京タワーとか、お台場とか、スカイツリーだとか、ネズミーランドとか!!」
いつの間にか、コタツに入り、懐っこく寄り付き、喋りまくりやがる。
ったく、女ってのはどいつもコイツもやかましい。
「なあなあ、サスケは、そういうトコ行ったりしたんだろ?」
「まあな。」
「どうだった?楽しかった?」
「別に、どうって事ねーよ。」
「なあ、芸能人とかにも会ったりすんの?」
「芸能人には興味はない。」
「じゃあさ、アキバとかは行った事ある?」
「車で素通りした事はあるが、出歩いた事はない。」
騒がしい奴だと思いながらも、何故だか邪険にも出来ず。
ナルトの一方的な質問に答え続けていた。
「漫画とか読むんか?」
「いや、小説派だ。」
「テレビは何が好き?」
「ニュース番組以外はあまり観ない。」
「ふーん、何だかお前ってば、随分とスカしてんのな。せっかくイケメンなんだからさ、もっと愛想よくすりゃいいのに…。」
「余計な世話だ。お前こそ、方言だか知らねーが、女のクセに随分と口悪いじゃねーか。」
「ハァ?お前、なに言ってんだ?」
「?」
「オレのドコをどー見りゃ女に見えんだよ!」
「…男、なのか?」
「当ったり前じゃん!!」
「…だってお前、高校生なのに、その声…」
「マジでお前オレが高校生に見えたんかよ!お前よかチビなのに?」
「原付、運転してたろ、お前…」
「そうだけど、それが何か関係あんの?」
「16歳以下だと免許、取れねーだろが…。」
「免許なんていんのか?」
「当然だろ。」
「チャリンコに?」
「電動式自転車なら問題ないが、原付は免許がいる。」
「原チャリは原チャリだろ?」
「正しくは原動機付き自転車だ。」
「ホラ、やっぱチャリじゃんか!!」
「まあ、そりゃそうだが、呼び名はどうであれモーター式エンジンを搭載してるものを運転するには免許が必要なんだ。」
「ふーん。でもそんな免許なんて見たコトねーぞ。サスケはあるんか?」
「周りに原付を乗ってる奴がいないから俺も見た事はねーが…」
「だったらいーじゃん!!」
「しかし、警察に見つかったら…」
「駅まで出りゃ交番はあっけど、んなもん、ここいらじゃねーし、第一お巡りさんとかオレってば見た事ねーし!!だから、大丈夫!」
「だが、法律上は…」
道交法も知らないだろうナルトに、そう説明しかけた時、襖がガラリと開いた。
「お客さん、先にお風呂どうぞ。」
「あ!母ちゃん!!、サスケってばすっげー面白ェヤツでさ。オレが高校生の女の子に見えたんだっつーんだ!」
「ナルト、あんた宿題は?」
「あっ!」
「こんなとこで油売ってないで早く済ませなさいってばね!」
「は〜い、わかったってばよ。んじゃサスケ、あとでな!」
そう言ってコタツから出るとナルトはこの部屋を出て、ドタドタと廊下を歩き、自室へと入っていった。
「ごめんなさいね。騒がしい子で。アナタみたいな年の子が来たのは初めてだったから、きっと嬉しくてはしゃいでしまったんだと思うの。」
母親の口ぶりから、兄は来た事がないって事らしい。
イタチは俺と同い年の頃、南賀ノ神社に訪れたと言っていたからな。
だとしたら、イタチは日帰りで帰ったと言う事か。
イタチの様子からして、そんな風には思えなかったが……。
「そうだ、開花の実って食べた事ある?」
「…いや。」
「そう、じゃあ用意しとくわね。」
ナルトの母親は微笑みながら事を伝えると、持って来たヤカンをストーブの上に置き、それから蜜柑をコタツの上に置いてから、腕に掛けてたバスタオルと浴衣やらを俺に手渡し、必要に風呂へと促した。
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