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思い出してごらん

車内に乗り込んでからも互いに口を噤み、居心地の良い特別車両の背もたれに寄りかかる。

退屈な車中。
良く晴れた陽射しの眩しさと隣に座る父の横顔を遮るようようにして瞼を閉ざし、今から十年前の記憶を辿り、話は中等部の二年へと上がる年の春めく季節へと遡る……――



当時俺は13歳。

幼い頃より、成績優秀かつ、スポーツも万能な五つ年上の兄、イタチは近々、大学へ進学するたも英国へと旅立つ準備に追われていた。


父だけではなく、周囲もイタチに将来を担っていた。
皆の注目の的であり、また俺の憧れであり目標でもあるイタチ。

決して自負はせず、謙虚でいて優しい兄自慢の兄。
しかし、そんな兄が俺の最大のコンプレックスでもあった。
あの頃の俺は、イタチに対する尊敬の念と、相反するやり切れない思いに駆られるばかりで少し自棄をおこしていた。
ずっと慕っていた兄が近々ここを離れてしまう寂しさと、手に届かない存在になってしまうとの懸念も相俟って、自我を放出していたのだろう。

(外国に行ってしまったとしたら、もう比較されずに済むだろうか?)

いや、それは恐らくない。
イタチの事だ、かの有名な英国の大学でも当然のように優秀な成績を収めるだろうからな。

「飛び級で卒業とかも有り得るな。そうしたら、さぞかし父さんも鼻が高いことだろうよ…」

つまり、何をどう足掻いた所で結局俺は兄さんに何一つ叶わないって訳だ。

「そんなのは解りきっていたんだがな…」

後ろ向きな思考に操られ、自室で不貞腐れたように寝転がっていると、扉を軽く叩く音が飛び込んだ。

「サスケ、父上がお呼びだ。」

「?」

(また小言かよ…。)

チッと舌打ちしてベッドから降り、父の書斎へと廊下を渡る。

「サスケか。入りなさい。」

厳格な声が響く襖向こうさえ祓うかにして、無造作に襖を放つ。

「……何だ、その態度は。」

「……――。」

襖の開け方ひとつにも手厳しい父に、正直うんざりしていた。

「まあ良い。……其処へ座りなさい。」

小言が増えるのは面倒だから行儀よくしとくか。

「お前に頼み事があるのだが、聞いてくれるか?」

「頼み事?」

「実はな、使いに行って欲しいのだ。しかしこれはただの使いではない。我が一族、否…、この家の沽券に拘わる重要な任務だ。」
「…――遂行出来なければ、家柄に傷がつくと言う事と捉えて欲しいと…」

「うむ。このうちはにはな、先祖代々から伝わる宝剣があってな…。うちはを…即ち、日本経済界の裏社会を牛耳るに相応しい者にその宝剣が与えられると伝えられている。」

「なっ!!」

何だ、その宝剣ってのは…。
確かにフィクサーと呼ばれる地位を築き上げ、陰より高度成長する日本の経済を支えてきたのは、何を隠そう、うちは財閥創設者であるうちはマダラだと聞いた事はあるが……

尚も興味深くと父さんの話に耳を傾ける。

「先代のフィクサー、…つまりはお前の曾祖父うちはマダラが他界されてからは、南賀ノ神社という所有の祠に、その宝剣が祀られているのだが、最近になって100余年ぶりに啓示が下ったそうなのだ。」

「そ、そんな大層なもんなら、俺じゃなく兄さんに頼んだ方がいいんじゃ…」

「否、イタチではなく……、サスケ、お前でないと駄目なのだ!」

父さんの眼孔が鋭いものへと変わり、顔つきが一段と神妙なものへとなった。

「その意味が解るな…、サスケ。」

「………――な、…何で、…何で、俺なんだよ!!兄さんの方が、それこそ、イタチの方が相応しいじゃねーか!!」

「…これは後世にも継いでゆかなくてはならない意志なのだ。偉大なる主君、うちはマダラのな…。」

「……くっ!!」

「宝剣の名は、天叢雲剣。(あめのむらくものつるぎ)…またの名を草薙。」

「!!?」

「三種神器の一つと伝来するものだ…。」

「そ、…そんな物が実在してたなんて…――」

「うちはマダラのみが、その気高い輝きを目にしたと云う其の宝剣。…如何なる事由があろうと他言無用で持ち帰れ。わかったな、サスケ。」

「………は‥い。」

「…その後は今まで以上に厳しくはなるが、全ての事柄に勤しむのだ。…故に手配は取っておく。」

「………――。」


降って涌いたような現実味のない話に異常な責務を感じ、言葉も出ず。一礼をしたのみで書斎を出た。

その後にやってきた身の震えを取り押さえるようにして強く拳を握り締め、何とか足場を保たせつつ階段を登り、自室へと向かった。

ドアノブに手をかけた時、背後から声を掛けられる。

「どうした、サスケ。」

振り返ると我が事以上に案じるイタチの眼差しがあった。

「……何でもない。」

「…そんな訳は無い筈だ。」

「……ーー」

「昔から変わらないな、サスケ。」

「!!」

「そんな顔つきをする時は決まって何か隠し事をしている…。そうだろう?」

「……兄‥さん…」

幼い頃から何一つ変わらない兄の優しさに満ちた眸に、堪えてた感情を吹き出すように俺は広い胸板へと飛び込んでいた。




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あきゅろす。
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