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Limit

サスケの1日の睡眠時間は平均して7時間程度。
鬼鮫はそれに賭けるしかなかった。


「お願いですから、ナルトくんといつもの場所で一緒に居てください、サスケ様!」

祈るように洩れた台詞はクラクションによって掻き消される。

居住とする邸宅に到着するや否や、車庫に入れる余裕もなく、急ブレーキを掛けたように雑な技巧で玄関に車を横付けた。鳴いたタイヤが鬼鮫の叫びにも聞き取れる。
乱雑に車のドアを開けると、鬼鮫の祈りは虚しいものと知らせるかなナルトの姿が視界を過ぎった。

「サスケ、てめー今日の約束破りやがったけど、どっか出掛けてたんかよ!?……――って、アレ?」

スモークを施した車窓の向こう側にサスケがいると思ったのだろう。しかしながらサスケの気配がない事を直ちに察知し、ナルトは鬼鮫の背中を追った。

「なあ、オッサン。アイツは一緒だったんじゃねーんか?」

ナルトが掛けた言葉も聞く耳持たずとした鬼鮫は一刻を争う勢いで重厚な扉の鍵を開けた。

この時、時計の針は午後7時過ぎを示し、朝食を運んだ時間から半日を知らせていた。


その少し前にサスケが眠りに就いたとしたら、タイムリミットは過ぎている。
そうではなく、返答するのも億劫で作業に徹していたとしたらまだ間に合う。


善きとする予測を胸に、ナルトへの返答は未だ返さずと、鬼鮫は我先に屋敷へ上がりて、玄関近くで螺旋を描く小洒落た階段を鈍い音を響かせ駆け登る。

「オイ!!オッサン!」

慌ただしい行動を見せる鬼鮫に異変を感じ、ナルトもその大きな後ろ姿を追う。

「うわぁああ!!」

「サスケ!」

「!!?」


階段を登りきった直後、二階の廊下にまで響く悲痛な叫びが鬼鮫とナルトの鼓膜を震わせた。

最悪の事態が起こってしまった可能性は高い。
鬼鮫はそれまで以上に取り乱した様子でサスケの部屋の扉を乱暴に叩いた。

「開けて下さい!お願いですから、サスケ様ッ!!!」

鬼鮫の呼びかけに対して、サスケからの返答は無く、また扉が開かれる様子は一切ない。
いつも平静なサスケの常としない声に、その身を襲った知れずな事態を酷く懸念するナルトも必死の形相で、鬼鮫よりも激しく扉を叩いていた。

「サスケ!!、開けろってば!!、サスケェエエーーッ!?」

サスケの身に迫る深刻をナルトは知らない。
開かない扉に対し、鬼鮫は部屋の合い鍵を求めて階下の隅にある屋敷の管理部屋へと急いだ。

鬼鮫の行動を一瞥する余裕もないナルトは、ただ躍起になってサスケの部屋の扉叩き、ドアノブを何度も何度も引き押しつつ、声の限りにサスケの名を途切れる事なく呼び続けた。

そうしたナルトの呼声は、サスケの叫び声と共鳴して、頑丈な建築内に酷く反響した。

サスケの部屋の合い鍵を手にした鬼鮫が駆けつける最中、尋常ではない事態に懸念して携帯を握り、懇意にしている病院へと連絡を入れた。
「わかりました、では宜しくお願いします。」

偶々、学会で此方に来ていた主治医のカブトがドクターカーに便乗して早急に此方へと向かってくれるらしい。それだけが幸いだと一呼吸つける。
そうしてサスケの部屋前へと辿り着いた鬼鮫は、ドアノブをガチャガチャと上下に振ってはドアを叩きながら「開けろ!!」と声高らかに性急するナルトの手を解き、その部屋の扉を放った。


この後、ナルトは想像を絶する程のサスケの哀しみを目の当たりにするのである。


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