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Countdown


明星に導かれた暁天の仄光が窓枠に反射し、昊(そら)色の濃度に段階を添えても尚、己が納得ゆくまで利き手の動きを止めず。躍動の赴く侭に時が過ぎ行くのも忘れ、ただ只管にサスケは絵筆を走らせていた。

透明感溢るる水面にまでも照り返る優色に満ちた夕陽へと、溶融してしまいそうなくらいに柔らかく微笑む少年の、その緩やかな淡色の瞳を作り上げるのに、納得行かずと没頭し続けたのだった。


キャンバスで放つ笑顔とは対照的なる憂いに満ちたサスケの眼差し。それは決して気付かれてはいけない想いの表れである。

(此の感情を素直に口に出来たのなら、どんなに楽だろうか…――)

ナルトに直接、伝えたとしたら、記憶を失うよりも辛い喪失を被る事は安易に想定できる。
だからこそサスケは必要以上に拘りを持ったのだ。

この先、如何なる時が訪れようとも、ナルトへの特別な感情を己にのみ伝えられるようにと宿して……――。








執事である鬼鮫が、朝食を知らせに来た頃には、既にサスケは床へと就き。手掛けた画布には、想いの限りを尽くした柔らかで暖かい色彩が残されていた。





普段通りに洗濯と掃除を午前中に済ませた鬼鮫は昼食の準備に取り掛かろうとするが、そんな時分になっても気配を見せないサスケを案じて、その前にサスケの部屋前へと足を運んだ。
扉を叩くがしかし、朝食を報せに行った時と同様に一切返答がない。
目の当たりにした訳では無いが、昨日から精魂込めて進めていたと思われる作業を仕上げ、恐らく疲れて果てて眠入ってしまっているのだろうと、鬼鮫はノックする拳を下ろし、階下へと戻った。

ナルトと約束してるだろう時間に間に合うよう、起こしてあげれば良いかと労いつつ、遅くとも二食も抜いた空腹を満たせられるよう昼食を拵えた。
それを居間のテーブルに置き、それから島の主要部へと赴く。開かれる事業団の総会に、顔出しする事さえも出来ないサスケの代わりとなって出席する為に。


飛行機の遅延により開始時刻が遅れてしまった会合の帰り道、唯でさえ急かされる状況下だというのに、思わぬ交通渋滞に見舞われてしまい気ぜわしく。
ラジオやナビゲーションより随時得られる交通情報すら渋滞要因を報せてくれずな現状もまた、鬼鮫の苛立ちを増長させた。


迂回すら出来ない道で立ち往生となった数分後に鳴り響いたサイレン音。
連なって通過する緊急車両の群れが、今起きたばかりの事故による渋滞だと確定させた。

大型トラックの横転が原因となり発生した玉突き事故のため下り車線全面通行止めとなってしまった高速道路。その事故処置のため、一般道へ迂回するようにとの情報が流れたが、降り口を数キロ先に構えた地点では、足止めを食らうしかない。苛立ちは焦りへと変わる。

ある程度の惨事の大きさを計る事が出来ると、不吉な予感にさえ見舞われる。

(普段は私が手掛ける事なく、まるで体内に正確な時計を持ってるように自ずと目を覚ますサスケ様。
何ら変わりなくと、今頃遅い昼食を採っていただけたのなら良いのですが……)



空が色合いを変え、随分と暮れなずむ頃、漸く渋滞が緩和されるも、直ちに混雑は解消されず。
自動的に点灯する車幅灯に不安を煽る。

隙をついては無理を承知で他車を追い越し、無謀とも思われる運転をして屋敷へと急いだのは“最悪の事態”を想定してしまったからであった。


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あきゅろす。
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