愛猫
見慣れた建物が並び、夕餉の香が漂う中を衝撃覚めやらぬ足取りで歩き続ける。ナルトの体温が徐々に冷たくなってゆくのを感じながら……
「お兄ちゃん、その猫死んじゃったの?」
習い事を終えて帰路を辿る子供に声を掛けられ一旦、その場に佇んだ。
「ああ、そうだ。俺を守ってな…」
「ふーん、お兄ちゃんを庇って死んじゃったんだ。…ねぇ、触ってもいい?」
見上げる無垢な瞳の高さに合わせるようしゃがみ込む。
伸びた小さな手が、温もりを残した儘、だらりとするナルトの頭をそうっと撫でた。
「お腹、痛かったんだね。この猫ちゃん。かわいそうに…」
「…そう、だな。」
「でも、なんか嬉しそうな顔してるね!」
「そうか?」
「きっとお兄ちゃんに抱っこされて嬉しかったんだってミコトは思うよ!
だって独りぽっちで死んじゃう猫ちゃんいっぱいだし、そうゆうのって悲しいから…」
「……そうだな。」
「この前ね、車に轢かれて死んじゃってる猫ちゃんを見た。」
「……。」
「でもね、ミコトは抱っこしてあげられなかったの。……かわいそうだったけど、怖くて。」
「…それが普通だ。」
「でもね、でも、お祈りだけはいっぱいしたの。天国にいけますよーにって。」
「それで十分だ…」
「じゃあ、そのお兄ちゃんを守ってくれたっていう猫ちゃんも天国に行けるように、いっぱい、いっぱいお祈りしとくね!」
「ああ、そうしてやってくれ。」
「…神様お願いします。絶対、絶対、この猫ちゃんを天国にいかせて下さい。」
「……――。」
暫く、その子は手を組み合わせ、跪いて瞳を伏せつつ何度も何度も、そう祈り続けていた。
俺は黙ってナルトの寝顔を見詰め、頬を乾いたナルトの鼻頭に擦り寄せ、必ずまた同じ世界で逢える事を願った。
人間に生まれ変わって……と。
「じゃあね!ミコト、おうち帰ってもまたいっぱいお願いしてみるから!」
「…ありがとう。」
「ううん、ミコトこそ、猫ちゃん触らせてくれてありがとう、お兄ちゃん。」
いつまでも手を振るミコトと名乗った女の子に背を向け、事故現場となった場所を通り。少しの間だったが、ナルトと暮らしたマンションを過ぎ行き、そして、その対面にあるアパートの階段を昇る。
ほんの数時間前
此処にナルトが佇み、睨むように瞳を据えて鳴いていた。
その玄関の前に座り、息を殺して、ナルトが完璧に冷たくなるまで抱き包み。
まだ触れていたいが、約束通りに硬直したナルトの亡骸を其処へと置く。
そうした途端
ナルトに触れる事は出来ない身となり、ただ、見守るように同じ場所に居座り続けていた。
『…サスケくん。』
扉向こうから聴こえるサクラの声がうざい。
『…ナルトまでこんな風にしてしまうなんて…思ってもみなかった。……ごめんなさい。』
『…………。』
『私は間違った選択をしてしまった。やっぱりサイを呪い殺すべきだった……――』
『……うるさい。』
『え?』
『邪魔だ、…失せろ。』
『――…わかったわ。ごめんなさい。』
『………。』
何の邪魔者もなく、時間が許される限りナルトを見守っていたい。
ナルトと俺だけの空間を保っていたい。
少しの間しか、こうして居られないのだからな…。
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