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体温


腹掛けのような傷口から流れ続く朱色の鮮血からして、ナルトの余命の短さが識れる。

溢れ出す感情を堪えるが為、唇を噛み締め込み上げるものを飲み下してから唇を開く。
ナルトが元来携えた力と俺がナルトに預けた力の限りを承知の上で。

『一つ頼みがある…』

『なに?』

『もう一度、お前を抱きたい。』

『………オレの頼みを聞いてくれるってんなら、いいってばよ。』

『…ああ。』


『あのな……――』

『わかった、必ず見届けてやる。』

『…約束だってばよ。』

それを最後に思念波が途絶え。そして俺は再び姿形を得て、ナルトに触れる事が許された。

頭を撫で、顎下へと擽る手付きで金糸に指を通す。柔らかいナルトに触れられる事に何よりも幸せを感じる。

伸ばした手に頬を擦り寄せ、糸のように瞳を撓めてゴロゴロと喉を鈴鳴らす、ナルトの温もりが愛らしい。

たとえ刹那の戯れだとしても、命の暖かみを感じられる事を嬉しく思う。

「ニャーオ。」

「ああ、そろそろ行こう。」



ナルトの腹傷を庇うようにゆっくりと小さな身を抱き上げる。

「あったかいな…、お前。」

温度差はあるものの互いに感じる温もりにナルトは安堵したのか、碧く澄んだ大きな瞳に柔らかな曲線を描きつつ、真っ直ぐと俺を見詰め「にゃあ」と一度、朗らかに鳴き。


それから――……


『今度は人間になって、お前を守っから…』

言霊を載せてた小さな声を発した後、笑ったような表情をする瞳をゆっくりと閉ざして、静かに眠るように俺の胸へと凭れかかった。

「!?」


帰路を急ぐ輩が疎らと通う街灯の袂で、血の気が引くような悪寒めいた感覚が走り、竦むようにして足が止まる。


「…ナル…ト?」


震える腕でナルトの暖かみが残存した身を抱き寄せ、強張る。覚悟はしていたが、いざ、その瞬間が訪れると途轍もない感情に襲われ。その情のまま脆くとなり、伏せるように俯く顔を傾け、項垂れたナルトの頭に頬を擦り当てた。



……ナルト。



    ナルト…――――




「ナルトォ!!」


脇目もふらずに名を叫ぶ。

短い人生を精一杯に生きた小さな姿を胸中に浮かび上がらせて。
ナルトの閉ざした目蓋を通り、開いた儘の傷口にまで堪えられずな雫が流れ落ちる。
…後から後から止め処なく。

「お前、‥まだ、こんなにあったけェじゃねーか。――…なのに…」

やるせない思いに応えず。
ナルトは、霊線さえも途切らせるほどの力を使い果たして先に旅立った。



ふと、夜気へと変わったばかりの空を見上げ、汚れた大気にも負けじと瞬き始めた星を虹彩に映し。
「必ず、俺も行く。お前は其処で大人しく待ってろ。」

伝言を預けるかに、そう発すると、偶然なのかそれを了承したと云うように、宵の明星を横切って星がひとつ流れ落ち。腕の中に収めたナルトの亡骸が頷いたように小さく首を傾けた。

潮気まざる水滴を肩先で拭い、ナルトとの約束を果たすため再び歩き出す。

ナルトに頼まれた場所へと向かって…――





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