想起
ナルトの奴、あんな致命傷を負いながら一体どこへ行くつもりなんだ?
“猫は自らの死期を感じたら消える。
目に止まらない場所を探し、ひっそりと息を引き取る習性がある”などとの伝えを聞いた事はあるが、まさか…――
そんな心配と不安を余所に、一心不乱に走っているナルトの後ろ姿をひたすら追い掛け続ける。
そして願う。
生きて欲しい…と。
住宅街のやや外れ、鬱蒼とする樹々が立ち並ぶ小路に差し掛かると、傷痍を顧みずに走ってた四つ足が失速し始める。
『ナルト…。』
呼びかけにも応じず、一度すら振り返る事なく。
弱々しくなった足取りは尚も進む。
俺を導くように……
そうして続く暗がりをゆき。行き止まりとなった門閉じる寺院の前で、先導する足が止まった。
『ここは…――』
俺の先祖代々が眠る墓がある寺じゃねーか。
何でナルトはこんな所に来たんだ?
俺へと振り返れば、その門前でキチンと前足を揃えて座り、微笑んだような眼差しを向けナルトは「ニャー」と、そう一言だけ鳴いた。
『何だ?…此処に何があるってんだ?』
『“九尾伝説”って知ってか?』
突然、思念波により伝えられたナルトの声に驚きと喜びを感じて立ち尽くす。
しかし、唐突に切り出された質問は此処に訪れた事と何か関連があるのだろうか?
『詳しくは知らないがその伝奇は聞いた事がある。』
『オレは昔、邪神と化した九尾だったんだ。』
『お前があの災いを齎せた九尾だというのか?』
『うん。あん時はさ、今みてーに豊かな世の中じゃなかったし荒れてたかんな。御上のやり方も反感を持たれてた。…で、ある男の反乱にマンマと利用されちまってな。その不徳のセイで天界にはもう戻れねーんだけど、お前の前世のおかげで地獄ゆきだけは免れたんだってばよ。』
『俺の前世?』
『お前は昔、禍々しい力で九尾を操れる一族の末裔だった。お前は自分の命を顧みずオレを操り、世を救った。オレに首縄を括りつけたマンマ、閻魔の前に引き摺り出して「こいつはオレのカルマだ。一緒に連れてゆく…」つって、閻魔のヤローに下克上を叩きつけ、オレを再生の道へと導いてくれた…。そん時、誓ったんだ。一生懸命修行して、いつかコイツに見合った人間に絶対ェなって、今度はコイツを助けてやるんだってな!…そんで、指切りしたんだ。閻魔の前で。』
『……。』
生まれ変わってまでナルトはその恩誼を感じてるって訳か…。
『そのおかげで、まだまだ人間には届かねー姿だけど、ある程度の霊格だけはもって何とかこうして再生するコトができたんだ。お前のそばにいる事も、魂の選択を決める僅かな時間だけでも、お前を生前の姿に戻す事もできた。まあ、それも全部、お前の陰徳があってこそなんだけどな。』
本来ならば、霊線が切れる24時間を過ぎた時点で閻魔の許へ導かれ、其処で魂の選択を受けるという。
他人に命を奪われたならば自ら選び。どんな事由があれ他人や己を殺めた者は即刻地獄ゆき。
サクラは、サイの現世での更正を望み、サイが天寿を全うするまではその傍に止まり。その後、自分の代わりにサイには再生の道を歩ませ、魂をも向上させサイに新たな人生を送らせる…という一風変わった条件で早々と、その選択を決めたそうだ。自分が地獄に堕ちるのは俺の命を奪った罪だと申し立てて……。
『サクラちゃんには助けられた事あっから、何とかしたかったんだけど、オレってばサスケの事で精一杯だったから…。』
『………――。』
サイの部屋を訪れた時、何故俺がサクラと同じ幽体となったのかが理解できた。
ナルトは俺を守るために……
『サスケの意志の強さを抑えんのは大変だったてばよ。でも何とかなった…』
その古から善行を知らずと重ね、そうした陰徳の力を得た俺と、自らの神通力を相乗させて、ナルトは先程の危機を奪回し、その余力で現在もこうした会話をする事が可能だという。
『…サスケにはココで安らかに眠って欲しいってばよ。』
『ナルト!』
伏せていた前世の事柄から及ぶ詳細な真実を証してまで、人を恨んだり憎んだりして殺してはいけないと伝えたかったのだろうか。穏やかな音声で送られたナルトの声。
俺は、それに縋りつくようにして屈み、ただ触れたいという一存から片手を伸ばし、素通りするナルトの頭へと掌を宛てがう真似をしていた。
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