変革 「またボクの邪魔しに来るなんて。…しつこいな、サスケくんは。」 サイには俺の姿が見えるのか? 確りとサイを取り押さえる俺にも、奴の力加減や感触が伝わってくるが… これはまるで生きてるかのような感覚だ。 何故、突然そうなったかは分からねェ。 ナルトも驚愕するばかりだ。 ただナルトを護りたいとの願いが、天に通じたのか。 実体と化して蘇る五感。 この有り得ない状況の理を知るは、まさに神のみぞ…と言った所だろう。 『サスケ!!、ダメだってばよ!』 「…ナルトに手を出すな!」 サイの両手首を強く握り込み、押さえ掴んだ力を増幅させ、サイをナルトから離すべく一歩二歩と後退させる。 「へェ、ナルトって言うんだ?その猫。」 どうやら声も届くらしい。 『サスケは手ェ出すんじゃねーぞ!…そいつはオレの獲物なんだかんな!!』 俺に自制を煽り、啖呵を切る声が聞こえた後、ナルトはタッと床を蹴り、俺の肩へと飛び乗った。 『サスケ。お前に与えられた力、借りるってばよ。』 ナルトと目が合うと意識下に呼び掛ける声が聞こえた。 精悍な面をするナルトの瞳孔が縦長い楕円にと様変わる。振りかぶるように顔をあげ、ガッと大きく口を開かせる。 「う…!!」 次なる瞬間、俺の首筋に痛みが走る。 ナルトの小さな牙が埋め込まれた事により感じる脱力。サイの動きを止めていた感触もなくなってゆく。 『悪く思うなってばよ、サスケ。』 奪われる実体感。 もう、痛みすら感じない身は、また幽体へと戻り、何も捕らえる事は出来なくなっていた。 それに逡巡したもの寸毫。ナルトの眼が碧から金色へと移り変わる。 「?!、……!!…」 忽然と消えた俺の姿に青ざめるサイは、金縛りに見舞われた様子で一分も動けず。声すらも出せず。その場に硬直して立ち尽くししている。 ナルトは、四肢を広げて、身動きならずなサイへと飛び付き。サイの頬と肩先を爪立てる前足で力強くと差し押さえ。そうして伸ばした首筋へと一気。獸王さながらにして、鋭く尖った牙をそこへと立てた。 そんなナルトの姿に息を飲む。 身を丸め金毛の首枷を作っては、鋭利な牙と爪とを皮膚に食い込ませる小さな獣の圧倒により、サイの手から刃物が落ち、床に跳ねる。 「ーー…う゛…ぐ……、ナ…ルト?」 サイの唇が漸くと開けば、徐々に硬直が解けてゆくようで。 ナルトを払おうと、サイの手が動いた。 強まる絞めつけと首筋に走る痛みに抵抗するも、俺から奪ったとするものを、見せ付けるかに勢力を増したナルトの力量の方が勝り。なかなかどうして、サイはナルトを離す事が出来ずにいた。 武器を失い、もがく姿に人間の脆さを晒して……。 その後ろでは、苦しむサイに触れられずではあるが、組み手を取った形を崩さずにいるサクラが見える。 また幽体にと戻ったからの現象か。 そう想定すれば、刹那的に肉体と思しき姿を取り戻した何らの力はナルトへと向かい、糧となったのは紛う事なき真実だと思われる。 目の前で展開される収束した力を発揮する光景をも含め、そう確信せざるを得ないだろう。 『ナルト、やめて!…このままじゃサイを殺してしまう。そしたらアンタは………――。いつか訪れる選択の時、最悪の道を選ぶしかなくなってしまうじゃない。』 サイを殺す? 確かに今の状態のナルトにはそういった勢いはあるが、そんな筈はない。 ナルトは自分から俺に約束をしたじゃねーか。“一緒に再生の道を…”と。 しつこく、そればかりを勧めたナルトのことだ。危機を奪回し致命的にならない程度に傷めつけるのみにとどめ、何らか策をつけると思うが…。 そう巡った矢先だった。 サクラの言の葉が届いたのか、ナルトは爪牙を皮膚から抜き去り、肩を蹴ってサイから離れ。柔らかな身を撓らせて俺の前にはだかるような格好で、トンと床へと四肢を着け。『先に逝ってろ!』と振り向きはしない背中で言付けた。 その時、その言葉の意が、何を示したのか。 俺には全く理解が出来なかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |