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元凶


ナルトを囲うようにして座ると過去に『遡るけど…』長くなると見越した話に了承をつける。


『今から一年前。マンション内の公園をでサスケくんの帰りを待とうとしてた時、仔猫の首を絞めようとしてる男の姿が目に飛び込んで、咄嗟に殴って注意したの。それがサイとの出会いだった。』

大学を卒業してから顔を合わせる事がなくなった為か、サクラは時折、自宅より一つ手前の駅で降り、幾度か俺を訪ねて来たそうだ。しかし、生前はその事を知らず。俺たたった今、初めてサクラの口より、そうした件を知らされた。

ナルトは何故か素知らぬ振りをするかに金糸纏う体を舐め始める。

『仔猫はパッと草むらに逃げ込み、サイは何事かと驚いた顔をして頬を押さえ、呆然と立ち尽くしたまま私が叱咤するのを不思議そうに眺めてた…

「ちょっと、アンタ!ぼ〜っとしてないで、ちゃんと聞きなさいよ!?」

「うん、…ああ、ちゃんと聞いてるよ。」

「今度は何で笑ってるのよ!」

「嬉しいから…。」

「え?」

「初めて叱られたんだ。生まれて初めて…」

サイは照れ臭さそうに微笑んで“叱られた”という行為を喜んでたの。そして寂しそうにこう言ったわ。
「今までもこうして動物を虐待した事があったけど、皆見て見ぬ振りをし、誰も悪い事だとは教えてくれなかったんだ。本にも書いてなかったしね。でも、キミに叱られて、いけない事だと知った。だから、これからはもうしないよ。」

幼い子供以下にモラルが欠如しているサイに何故だか興味を持ってしまったの。そして、これを切っ掛けに彼を真っ当へと導きたいと思ってしまった。“人間”として…。』

それから、俺のマンションへ行く度、サイに出会ったという。最初は偶然だと思っていたが、サイは夕方を過ぎると自室のベランダから毎日のようにマンション付近を眺め、サクラの姿を追ってたらしい。
サクラはそれを気味悪がるがらず、逆にそうまでして自分と会いたいというサイの思いが嬉しく。
また、自分に心を開いてくれた事を喜ばしく思ったという‥…。

その内、サイが良く行く図書館に行ったり、買い物や食事に行ったりして他愛もない話を二人でしたそうだ。

『初めてサイの部屋に行った時は流石に驚いてしまったわ。サスケくんも視たでしょ?』

『ああ。』

『サイは愛しいと思ったものを全てああして閉じ込めてしまってたの。自分から離れていかないように…』

本能的に働いてしまった暴動から一寸のみ沸く、感情にそのものの体液から色彩を委ねて創作に取り組み、腐敗してゆく肉体を紙に描き留めて、愛でる…のがサイの愛情表現だとサクラは辛辣に語り。続けざまにどうしてサイがそんな風に歪んだ形で愛情表現をするのか、その原因となった事件について物憂げな口調で語りだす。

襖で仕切る向こう部屋から、粘膜が絡み合う音と何度も何度もサクラの屍を揺らす音が漏れだす。

ナルトは寄り添うように俺へと背中を傾け、静かに寝そべって床に片髭を落とした。

『離婚届けに判を捺して、出て行くサイのお父さんの背中を鋭利な刃物で殺害したお母さんは、その様子を立ち竦み見ていたサイにも刃を向けたの。自分の手から愛しい者達が立ち行かないように…って。その時サイはまだ小学生だったそうよ。』

『……それは酷だったな。』

『ええ。でもね、サイは「世界で一番愛してる。だから家庭を守り、サイをも愛したのに」って泣きながらお父さんを殺傷したお母さんの言葉が何よりもショックだったらしいの。』

その後、サイは自分から離れて行かないようにと願い、自分に刺さった刃物を引き抜いて母親を惨殺したそうだ。重傷を負いながらも“痛み”を感じず、微笑みながらに。最期に母親は「ありがとう」と微笑んで息を引き取ったという。

恐らく、この時サイは、本能の働きにより痛覚が一時的に麻痺したというよりも、心身共に受けた酷いショックの為に正常な感覚を失い、感情までもが狂った方面に向いてしまったのだろう。

『事実はどうあれ、幼いサイの行動は正当防衛とされて、誰からも咎められる事はなかったの。逆に世間はそれを称賛し、サイに同情の目を向けたんですって。それもあってサイは生き物を殺める事を悪いとは思わなかったみたい。』

己に尽くすような愛情で接してくれた母親を亡くしたサイは何らかの繋がりを求め、書物を読み漁った。立ち振る舞いを糺し、記された内容通りに行い、そうして他人との接触を得ようするも、結局は上辺だけの関係しか繕う事が出来ず。
欠損は埋められないまま、もがく一方の日々が過ぎる。
その最中、言葉の通じない相手になら分かり合えるだろうと、手を伸ばし触れたが、それすら思い通りにはいかず。どうしたら自分を受け入れて貰えるのだろうか…と再三悩み。
結局、亡骸として傍に置き、愛でる事を選んでしまっていたのは、母親がサイの父親に向けた行為を善だと受け止め、それを実行に移す事により、己の内にある母親像を尊重していたかったのか…。
それは分かり兼ねないが、母親の影響はかなり強い筈だ。
サクラから話されたサイの過程を聞き、そんな憶測をつけていた。

『私はサイに絵を処分するように言ったんだけど、サイは、自分の罪を忘れないように…って描いた絵を飾る事をやめなかったわ。これでもサイは、随分と人間の持つ正常な感情を取り戻してたの。それは確かだったのに……』

サクラは視線を逸らし一度口を噤み、言い難そうに息を飲むと、自分へと抱いた恋愛感情が事の起こりを招いたと、その背景を口にする。

核心に迫る内容が発せられる中、サクラの亡骸を犯す物音が荒いでゆく。

まるで当て付けるかに……。





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あきゅろす。
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