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Song1


学校までの道程
長い坂を歩幅を崩さずに登っていた。

絵*キノコの隠れ里


「待って、‥サスケェ」

あともう少しで登り切る途中、息があがった声と地を駆ける足音が背後から聞こえ、立ち止まる。
振り返ると懸命に俺を追いかけて来る小さな姿が目に入った。


「…はァ、…‥っぁ…、‥ご、…ごめん‥」

金色の髪を乱して息を乱し今にも泣き出しそうな碧い瞳で俺を見上げ、情けなさそうに謝るコイツの名はうずまきナルト。

「坂きついんだろ?
何故、バスに乗らない?」

「…サスケと‥、一緒に…がいいから…」


息切れした息が弾む唇をにこやかに持ち上げ隣りに並ぶ。
朝陽に反射する髪が光る、その笑顔が眩しく。視線を逸らすかに顔を元へと戻し、ポケットへ両手を入れたまま、やや早足で歩き始めた。

ちまちま運ぶ足幅を広くと変え、俺の隣を確保するかに歩くナルト。


こうして二人で坂を登り切ると見えた門の前で登校を急かす教師の声が響いた。

「走るぞ…。」


「あ、‥うん」

グイとナルトの腕を引っ張って無理はさせないスピードで走る。

整い始めた息が再び荒くと弾む。
門を潜り安心して走る事をやめナルトへと振り返ると
惰性で足を運び、言葉もなく酸素を吸っては吐く辛そうな顔が目に飛び込んだ。


完全に無理させてるとしか思えない。


「明日からお前はバスに乗れよ‥」

「…ハァ、……っ…サスケが…、バスに…乗るんなら‥‥そーするってば…」


「…俺はこの景色を眺め歩くのが好きでな‥」

「オレも!」

「だが、お前がいると時間に余裕がなくなる…」

「……‥―――ごめん。オレ‥お前みてーに坂早く登れねーから‥…ごめんな。」

切れた息は整えきれず眉を垂らす…。

そんなつもりで言ったんじゃない。


わざわざバス通学をやめて俺と歩き、走り、息を切らして辛そうにするお前を心配して言っただけなんだが……
口下手な俺は上手くは伝えられず、ナルトを物憂げにとさせた。


「‥いちいち謝るな、ウスラトンカチ。」

「‥だって、ごめん。」

「…明日から、お互い少し早めに家を出ような‥」

そんな悲しい顔は見たくない。
そう思ったら握ったままの手を強くと繋いでいた。

「うん!…がんばっから!!オレさ、サスケみてーに足早くなりてーし、それに強くなりてーしな!」

にっこりと笑う顔…

お前にはいつでも笑っていて欲しい。

「辛くなったら、直ぐにバス通学に戻すんだぞ。」

「大丈夫!全然ヘーキィ!」

ブンブンと振る繋ぎ手を離して校舎に入る。

廊下を渡り教室に入ると数人かのクラスメートに挨拶を交わし
席に着く。





退屈を伴い流れ行く時間
つまらない教師の授業が進む最中に思い起こす…



先週、こいつに告白されて俺達は付き合い始めた。

昔は偏見があったらしいが、現在は同性愛にも寛大で当たり前の様にカップルが成立している。
だから俺に迷いなど一切なかった。



天然なる金色の柔髪
丸く淡い色をした瞳。
愛らしい容姿に魅せられて、一つ返事で俺はこいつの彼氏になった。

きっと誰しもが
断わる事が出来ないだろう。



授業中に
ぼんやりとナルトを眺め、そんな事を考えていると目が合い
にっこり笑う、ナルトが可愛い‥



―――――‥課程を終えた帰り道、当然と隣り並ぶナルトに歩幅を合わせ歩いてみた。









「なぁ‥サスケ、恋人同士がするコト‥…
やってみねーか?」


はにかみつつ伝える唇に言葉を失う。


なんだコイツ‥
もしかして俺を誘ってやがるのか?


……そうか
ナルトも興味があったって訳か。


「俺は構わないが流石に、ここじゃマズいだろ…」


「へ?、そーなんか?じゃあ‥もうちょっと人がいねートコで‥…」


積極的に手を取られ
走るナルトに連いて行く。
朝とは逆な立場だ‥…


暫く進む道…
人気から外れ


立ち止まり
キョロキョロと辺りを見回す


「よし!」

何やら頷き、確信した様子で振り返るナルトの碧い瞳が
俺に真っ直ぐと向けられた。


「…あのさ…サスケ、…オレ…実は初めてなんだけど…」


「…初めて…なのか?
…お前‥」


やはりコイツは見た目や行動通り歳より幼く……初なまま――


「…‥うん、ごめんな。…サスケはモテるだろーから、初めて‥なんかじゃねーと思うけど‥」


「…ナルト」

恥ずかしそうに頬を赤らめる俺より幅のない肩を抱く。

間違いなくナルトは俺を求めてる…‥


「して‥くれる?」


「…ああ、もちろんだ」

顔を寄せようと傾ければ、何やらゴソゴソと鞄を手探り一冊のノートを取り出した。


「…今日から、交換日記‥しよーぜ!」


…俺の
やましい期待は的外れとなった。












家に帰り自室のベッドに横たわり
渡されたノートを開く。

小さな丸っこい文字が並ぶ。
そこには今日あった出来事が記されていた。

その文字の羅列から
意識しちまって上手く言葉を交わせないのは……俺だけじゃあなかったと知った。










渡された交換日記に
文字を綴る事なく、一週間が過ぎた。


休日を明け
いつもの様に早めに家を出てナルトと待ち合わせ学校に向かう。


「…日記、書いてくれた?」

決して催促はしなかったナルトが流石に堰を切らしたのかチラリと横目で問い掛けた。


「書くには書いたが…」

「見せて!」

「一行しか…ない」


何を書けばいいやら皆目つかず
言葉が見つからず……



それでもいいと嬉しそうに手を出すナルトに渡したくはない日記を渡した。


「何が書いてあんのっかな〜」


「…‥すまない。」






俺が綴った文字を見たナルトが憂いに帯びる……




『日記はやめよう。』





「オレ初めてだったし、やっぱ何か恥ずかしいモンな!」


ニッと笑う口元は
いつもと同じだった…


しかし碧い瞳は
悲しそうだった…





昼休み
互いに違うクラスメートに囲まれ飯を食う。


その間もナルトに視線が行ってしまうがアイツは俺の方を見ようとはしなかった。





胸が締め付けられる。何故だか苦しい…。



居ても経ってもいられなくなり俺は席を立ち、キバやシカマル、チョウジと輪を作るナルトの肩を叩いた。



「放課後、時間あったら付き合ってくれないか?」


「…わかった。じゃ、また後でなっ」

簡素な返答。
場を装う笑顔…

ナルトなりに
この先の気配を感じている気がした。

伝言を終えた俺は一人屋上へと上がり空を見上げる…

何とも言えない複雑な思いを
アイツの瞳色に似た空に溶かすかに
ただ呆然と…―――。









そして放課後。


俺はナルトと学校の門を潜り
帰り道とは反対の山道へと歩いて行った。


「ここ‥立ち入り禁止って書いてあっけど‥」

壊れ有刺鉄線
煤けた看板の文字に不安そうな声色を漏らす。


「昔は自衛隊の敷地だったらしいが何年も前から使われちゃいない‥。危険はねーから安心しろ。」

「本当に大丈夫なんか?」

「ああ‥、たまにだが以前から俺はここに通っている」

緩い斜面の林間道を登り到達した高台。

窓も扉もない四角くいだけ箱型をした
見張り台に使用されていたように思える
小さな鉄骨の建物にナルトを招き入れる。

「来いよ…」

「うわァー‥すっげー!!」


俺達が住む田舎の小さな街が一望出来る
ここは俺の一番好きな場所だ。
夕陽色に染まる空と小さな街。
それを眺める大きな瞳、きらきらと映える金色の髪。

眩い笑顔に憂いはなくなっていた。

「オレんちやサスケんち‥すっげー小っちェのな!」

はしゃぐナルトから
目線を小さな街に合わせ共に眺める


「お前に見せたかったんだ…、この景色をな。」

「…ありがと!いいトコ教えてもらったってばよ!」

口が悪く、人付き合いが苦手な俺は何かあるとココに来てこの景色を眺めてた。

「俺以外、お前しか知らないんだぜ。ここ‥…」


「へェ‥、じゃあさ、じゃあ今日からココはオレ達の秘密基地になったんだな!」


「…ああ。誰にも内緒だぞ。」

「おう!サスケの友達として誰にも言わないってばよっ!」


友達?
…恋人じゃねーのかよ。


「…なぁ、サスケ。
オレ達…戻ろっか、だだのクラスメートに…さ。」







ある程度は予想していた。
だが
実際にその場面となると何とも言えない苦々しさが込み上げる。








告白して来たのは
コイツからだった。

「付き合ってくれっと嬉しいんだけど‥」

好きとは言わない告白だった。





「…サスケの恋人として好きになろーと頑張ったけど、ダメだったみたい。……ごめんな。」


ナルトは俺を好きじゃなかったらしい。
じゃあ何故…?


問い質すと
俺に憧れている事を話したら、シカマルやキバ、サクラなどの連中に囃し立てられ、憧れと好きの区別がつかないまま、
付き合うなんてコトにはならないと想定して告白した……と話してくれた。

「サスケがオッケーすっから悪いんだ‥。何で断わんなかったんだよ!」
「…顔だ。…お前の顔、可愛いから…」


「顔?……顔だけなんか!ひっでーなっ!」

「お前こそ、酷ェじゃねーか。好きじゃなかったなんて…」


「うっせー!うっせー!、オレさシカマルやキバに色々聞いて、頑張ったんだぜ!お前のコト少しでもわかってやりたくて、この気持ちが好きってヤツなんかどーか知りたくて!」


「俺もお前の事、理解したかった。お前の日記、俺の知らないお前がいた…」


「なんだよ!
やめようって言ったのサスケじゃん!」

「分からなかったんだ!…日記なんて書いたコトねーし、それに待たせちゃ悪いと思ったしな…」


俺達は初めて本音で色々と言い合った。


ナルトは恋人として俺に何をするべきか、
どうやって恋人らしくするか…
散々悩んでアドバイスを受けて、その通りにしてた事。

口下手な俺と少しでも言葉を交したくてシカマル達に相談し挙句、
交換日記を勧められ
そしてまさか本当に始めるなんて‥と野次られた事、俺に対して
どうしていいか分からなくなって一人悩んでた事。
俺に嫌われたくない一心で……――。



「なあ‥ナルト、それが好きって事なんじゃねーか?」


「…え!、そーなんか!?」




ナルトは俺と同じく不器用だった…。



「今日は、初めてサスケの本音を訊けて
よかったってばよ!
やっぱ友達の方が気が楽だよな!」


友達との間柄を口にされる度に何故だか切なさを感じた俺は
屈託のない笑顔で答えを求めてるナルトを何も言わずに強く抱き締めた。
まるで独りにするなと言うように……


「サ‥スケ、苦しい…」

「……ナルト…」

力を緩め腕を解き
丸い頬を両手で包み夕陽注ぐ金色の横髪へと指を手繰らせる。

「……サスケ…?」

不思議そうに
傾ける顔…
窺う碧い眼差し
俺の名を刻む小さな唇目指して顔を寄せる…

「……んん‥」


嫌がりはしないナルトの唇を塞ぐと
僅かな隙間から甘い息が篭る。


唇を解放すれば
息を止めてたのか金魚みたいにぷはッと開く。


どうやら
キスの仕方さえ知らないらしい。


「……サス‥ケ、…なんで?」


「……好きだ‥からだ…」


「……‥オレも、……サスケが……――」



夕闇が広がる景色を見下ろす場所……


「……――好き。」


俺の背中の衣服を力いっぱい掴み
若干震えつつな声色で伝え終えた途端、
肩に顔を埋めたナルトを包むように抱き締めた。







俺達は
恋して行く……――












「………――じゃあ!交換日記っ、オレから書くから!」






…――ハズだ。



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