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架空請求.3










ピンポーン…


ガチャ、




「こんにちは」


「どうも、じゃあ入って?」


「はい」



















       架空請求.3



















「それが一応俺が集めたヤツ。それ以外にあるか弥子ちゃんちょっとこの中探してくんない?俺じゃ分かんなくて」


「あ、はい……」



久々に訪れた笹塚さんのマンションは、とても異質だった。あの日から何も変わってない部屋が、私にとってすごく奇妙に映る。

また、感じる違和感。



「…あの、」


「ん?」


「‥この部屋って誰かいないんですか?」


「……誰かって?」


「や、えっと…他の人、とか……」


口ごもる私を見て、何を言いたいか分かったのが笹塚さんはタバコを1本取り出し


「…ああ、“まだ”いないね。」


そう言い終わると、タバコに火を付け、煙が宙に舞った。

ガララ…

タバコを吸う時は必ずベランダに行く彼の優しさは今も変わらない。
別にいいのに…
以前ベランダに度々行ってしまう笹塚さんに言った言葉は愛の印となって返ってきた。

『ん、だって弥子ちゃんが丈夫な赤ちゃん産めなくなるしね、俺の』


その時は冗談なんて言って笑ってたけど、私は本気にしたんだよ。
この人と一生生きるんだって、実感したんだよ。




「まだだって………嘘ばっかり」


彼がモテる事はお見通しだ。
デートをしている時、彼と街ですれ違う女の人の反応は私と似ていた。

他がほっとくハズがない彼を、ただ私何かが困らせて留めただけなんだ。
あの時聞いた笹塚さんと同僚の会話が何よりも真実。


それをあれは何かの間違い、きっと違う意味があったハズだと、

何で聞けなかったのだろう。



ガララ…


「……弥子ちゃん、どう?終わった?」


本当は
本当は、
彼を信じるなんて口だけ。
それは若さ故の自信。保証なんてどこにもないのに、当然だとばかりにそれに委ねた結果。
確かにあったのは未熟さ。



「弥子ちゃん?」



いつもどこかで疑い出したのは笹塚さん達の話しを聞いた時。
そんなハズないと思いながらも会えば彼の心を探ってはあれが嘘である事を確信付けようと必死だってた。

そうでもしなきゃ揺らいでしまいそうで、


「……弥子ちゃん、」


こぼれ落ちそうで。




「……なんで泣くの」


目から溢れては落ちてしまう。
泣くなんてまた彼を困らせるだけなのに、何で止まらないんだろう。


「…ご、ごめん…なさい…」


途切れ途切れに出た言葉は何に対してか、ただその言葉しか頭にはなかった。

ポンっと、笹塚さんの手が私の頭に置かれる。
そんな優しさが今は痛々しかった。
胸はえぐられたように苦しく、呼吸が上手く出来ない。

はぁ、そう溜め息を零す彼にジワっと滲み出る涙。ゴメンナサイと頭に浮かんだ瞬間、体に感じた温もり。



「…さ、づか…さん…?」


「何でキミが泣くの」


「…え、」



ぎゅうっと、感じていた温もりが強くなる。




「キミが俺を置いていくくせに…」









抱き締められている腕が少し痛かったのにそれはとても心地良いもので、私はソッと彼の背中に腕を回した。

今まで遠かった彼を、ようやく近くに感じる。



言葉にしなければ
伝わらない。



「…笹塚さん、私、」



疑ってしまうのはきっとお互い様。
その誤解を少しでも無くしていくのが恋なんじゃないかと、


これも若さ故の発想かな。



「好きです…」




伝わる体温から私は思い知る。
これが恋。
楽しいばかりじゃない付き合い。

それを後幾度乗り越えれば私は彼の赤ちゃんを産めるだろうか。

そんな浅はか考えやはりちょっとやそっとじゃ捨てきれない。





それが、恋。








end.


とりあえず無理やり完結←
大層な3部作にしましたが、これただの痴話喧嘩です。初めての喧嘩に戸惑う2人でした。



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