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ふああ、と横で欠伸をする音がした。
「何だか寝てしまいそうだな…。昼休みが終わる前に起こしてくれ」
「おい」
あっさりと瞼を閉ざしてしまった紫を横に、こちらの了承は完全無視の決定事項なのかそれは、と言えないまま、生温い思いを抱きながら彼は薄目を開けた。雲のない空をしばらく瞳に映したあと、のっそりと上半身を起こす。
ゆっくりと首が動いて、止まる。紫を見下ろす。
薄く唇を開き、拍子抜けするほど緩んでいる寝顔がそこに晒されていた。
聖は何の感情もこもらない目で紫の顔を見つめている。
陽光をそのまま弾くような、不思議な色彩を放つ黒い前髪がゆるくはだけていて、普段は成りを潜めている細い眉が覗いている。
猫を思わせる黒目がちな切れ長の双眸は今は深く閉ざされていて、思っていたよりも長い、ゆるやかに反った睫毛が目元に細い影を落としている。
一時停止画面のような音のない時間。
彼はおそらく気付いていない。紫に落としているその眼差しが、いつもの尖ったものから少しずつ形を変えていることに。
――やがて彼の顔が前方を向こうという素振りをみせたとき、不意に紫がぱちっと瞼を開いた。完全に目と目が合ってしまう。
本当に眠ってしまうつもりではなかったのか、眠りが浅かったのか。
さっと目を反らした彼は、何故だか――形容しがたい息苦しさが胸に広がっていくのを感じた。
さっきので彼が紫をじっと見下ろしていたことに気付かれたかもしれないが、しかし彼女は別段それを気にとめている様子はない。
それはそうだろう、人と目線を絡め合うのなど生活していくうえでよくある、取るに足らない伝達手段なのだから。
紫が天に向けて腕を精一杯伸ばしながら「…そういえば」と欠伸混じりに呟く。
「なあ河合。あんたの目付きの悪さは元々か?どうも睨まれてるように思えてならない」
いつの間にやら呼び捨てに変わっている上に、変化球が飛んできた。
とはいえ、『風紀委員長』よりは耳馴染みがよかった。
返事の代わりに、彼は寝転がったままこちらに真っ直ぐ目を向けてくる紫を、目を細めて無言で見返した。
「人には冷たいし、やたらフィールド張ってるし、友達も作ろうとしないな。どうしてだ?本当は私の事もうっとうしくてしょうがないんだろう。悪いなぁ、いつもつきまとって」
それは疑問形というよりは皮肉げな響きで、そして全然悪いと思っていなさそうな口調で、ある程度親しい間柄でも言いづらい事を、実にさらりと言い放たれた。
「一個人の個性。別に鬱陶しくはない」
極めて簡潔な彼の返答に、何故か小さく笑みが返される。
ただそれはいつもの皮肉笑いとは少し違っていて、そう、余りにも月並みではあるけれども、何というか――
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