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3


『君は人間に近付きすぎた。それは同時に君の弱点ともなり得るんだよ。今回の危険因子は酷く慎重で回りくどくて、まるで蛇のようだ』


彼の言い分は全く正論で、だから自分には話を折る権利はない。

人間であるのに、人間に近づき過ぎてはならないという矛盾。そんなものは既に心得ている。

それでも――ときおり勝手に湧き出してくる小さな葛藤と、胸の中では争い続けているのだ。


『きっと相手は君のわずかな隙につけこんでくるだろうね。私が言いたいのはそれだけだよ』

「……………。」


言葉を失った蛍子は、膝の上で組んだ両手を軽く握り締めてじっと黙り込んだ。


――少しして、姿の見えない声の主が重苦しい空気を取り払うように小さく微笑んだ気配がし、


『沙凪ちゃんの護衛ってのも結構きついものがあってね。…いや、年頃の女の子が着替える場面なんてどうすればいいものかと、真剣に悩んだりしてるんだけどね』


と、悩んでいるとは思えないおどけた口調で言った。


「…見てないでしょうね」


急に蛍子の声色が変わる。
心なしか、目の奥に何かが揺らめいているように見える。


『いやまあ…近頃の子は発育がいいというのは本当だね』

「…そうだわ。このところ体が鈍ってるから、対因子戦を仮定してあなたで手慣らししておこうかしら」


獣のような眼差しで遠くを見やりながら、蛍子は獰猛な笑みを浮かべた。


『はは、冗談の通じない人だね君は…まあその糞真面目さが君のいいところなんだけどね。それに君の〈クリムゾン〉は無闇に発動させるものじゃないよ』

「…分かってるわよ」


冗談と分かり、蛍子から黒いオーラが消え去った。代わりに苦笑を浮かべ、拗ねたように嘆息する。


『全く、こういう時の君は本当の母親のようで何だか頭が下がる思いだよ』


苦い想いを込めながら――結局変わる事の出来ない頑固な彼女を一方的に突き放すことができない自分に、彼――オウルは苦笑を抑えきることができなかった。


『あ、珍しい制服ならここらだと煌和学園かな。シナモンと焦茶を混ぜたような色だよ』

「それを先に言いなさいよ」

『ごめんごめん。…あ、』


彼の声に蛍子が振り向くと、そこには――
時計台を軸に伸びる太い影からのっそりと現れた"腕"があった。

影の中から腕が生えている。
そうとしか思えないような姿が、そこにある。


『資料、一枚飛んでたよ。無くなったらどうなるのかな』

「拾得者が情報を撒く前に殺処分よ。ありがと」


彼のからかいに至って真面目な返答をし、彼女は資料を彼の"腕"から受け取った。




♯ただ、ひとりの
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