3
が、蛍子の心情が反映されるはずなどなく、朔夜も楽しそうに話に乗り始めてしまった。
「珍しい物を集めるのが好きなんだ。ここらの雑貨屋とか骨董屋は一通りまわったかな。なかなかこれ!ってものは見付けられないんだけどね」
ん?と蛍子は少年の話し振りに一瞬、気が引かれた。
気のせいかもしれないが、「珍しい」のくだりを語る彼の目がほんの一瞬、熱を帯びたような気がしたためだ。
その刹那だけは何だか、これまでの骨砕け男という感じではなく、彼の堅固な信念やこだわりが垣間見えたような気がした。
視線は外したまま感覚を彼に向けて、引き続き少年の様子を観察する。
自然に夕飯を口許に運んでいく作業も怠らない。
「最近けっこう運回りがいいみたいで順調でさ、なんだか嬉しくって」
少年は照れ臭さを隠しもせず、頭を掻きながら嬉しそうにはにかんでいる。
しかしそれらの様子はやっぱり先程までのような骨砕けの情けないものだったので、気のせいね、と蛍子はすぐにその事を忘れた。
***
「遅くまで付き合ってくれてありがと。ごめんネ」
別れ際、沙凪はマンションの下まで彼を見送りに行っていた。
室内は静寂を取り戻していて、こちこち、と壁時計が鳴っている。
綺麗に平らげられ残された食器が、まだテーブルの上に並んでいる。
今は蛍子の存在があるため、沙凪の身は[彼]の護衛の範疇ではない。
蛍子は窓越しに、遥か下に隔てた地上にいる娘の様子をぼんやりと眺めていた。
(さて…一応手掛りらしきものを掴んだ訳だけれど)
その点に関しては、あの少年に対して純粋に感謝している。
夜闇の広がる眼下で、少年の後ろ姿に手を振っていた娘がマンションの敷地内に戻ったのを見届けた彼女は、ちらりと幻月に鋭い眼差しを向けた。
[前][次]
無料HPエムペ!