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「えっと…は、初めまして、沙凪さんのクラスメートの蒼木 朔夜です」

「沙凪の母です。初めまして」


おどおどと自己紹介をする少年に向かって、蛍子はひとまずにっこりとした表情を浮かべた。

間近でその少年を目の当たりにした蛍子は、今にも漏れ出てしまいそうな溜め息を懸命に飲み込んでいた。

まあ顔立ちは可愛らしい。が、他に特徴らしい特徴もない凡庸な子だ。

やんわりと何かを話し掛けても『はあ、そうですね』だの『え、そうですか』だの、取って付けたような頼りなげな笑顔や煮えきらない態度に、ついに蛍子は席を立った。

配膳を手伝うフリをしながら沙凪を物陰に引っ張りこみ、


「…沙凪。何なのあれは」


たまらず沙凪本人に小声でそう聞いてしまった。


「えっと…一応、か、カレシとか…えへ」

「そういう事じゃなくて。どうしてあんな子なの?はっきり言ってあなた、男の趣味悪いわ」

「え、そうかなぁ。すっごく気が利いて、優しいんだよ」


沙凪は大きな皿を両手で持って逃げるようにキッチンから出ていってしまった。

その場に残された蛍子は、やれやれと首を振りやっと溜め息を漏らす。

まあ、娘のためにこの場は無難にやり過ごすしかないわね、と諦めるしかない。



夕食の献立は沙凪の得意料理ばかりで、ほうれん草とガーリックのパスタに温野菜のホワイトソーススープ、シーザーサラダとデニッシュブレッド、というかなり手のこんだものだった。
一生懸命作ったのが伺える。

スープのミートボールをフォークでつつきながら、沙凪がつい、と蛍子に顔を向けた。


「お母さんあのね、実は朔夜くんが何かヘンなモノを見たんだって。確か、先週だったよね」

「あ、はい。そうなんです」


へえ、と蛍子は朔夜に顔を向けたが、腹の中ではぎくりとのしかかる想いもあった。

二人から漂ってくる空気から分かる。これから話題にあげられるのは捜査に関わる内容だろう。

沙凪に捜査内情は勿論話していないものの、娘は娘なりに気付き、考え、協力したいという想いがあるのだろう。


(まずいわね。興味を持たせてはならないのに)


警察は未だ手詰まりに近い状態。だから今後も間違いなく被害者が出てしまうだろう。

――あなたも、既に標的の範疇となってしまっているのかもしれないのよ…。

ひたひたと忍び寄ってくる戦慄を、しかし彼女は微塵も表情に浮かべる事なく、朔夜に笑顔を向けて話を促した。



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