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――被害者は人間。

純粋因子のように肉体が強化された訳でもないただの人間。いくらかの損傷を与えれば呆気なく死に至る脆弱な生き物。

死ぬ。死――…

ここでふいに、彼女の脳裏に自分でも俄かには信じがたい考えが閃いてしまった。


(『死なない』人間だった?…いえ、なかなか死なない…または死んでも蘇生するタイプの能力者…)


仮にそうであったなら驚くべき能力ね…、と少し考えが逸れた。

我が中核にぜひ取り入れたい貴重なサンプルとなったろうに、死んでしまっては元も子も無い。

蛍子は小さく咳払いし、意識を眼前の情景に引き戻した。再び足元に視線を落とす。

遺体に故意に損傷を残すのは快楽殺人に多い兆候だが、今回唐突にそのような衝動に目覚めた訳でもあるまい。

となると彼女が考え付いた案が一番合点がいく。
もちろん――推測の域は越えないとしても。


(きっと犯人には因子を持つか持たないかの識別ができ、でもその能力までは測れないのね。ひとまずは殺して――…)


殺して…。殺したあとに。


(…眼球を押し退けて前頭葉に接触する行為に何の意味があるの…)


目を細めて室内をぐるぐると歩き回りながら、慎重に模索を重ねていく。

何と無く…いや、かなり深層部に近付いてきている気がする。


(あともう少し…もう少し何かが加われば繋がりそうなのよ…)


前髪をくしゃりと掻き撫でたその表情には、濃い焦りが浮かんでいた。

焦らせる根幹――

官憲としての責務。そして何より自分達の命を守りぬくための、そのための。



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