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(ここか……)


踵の低いパンプスの音が反響するがらんとした室内の中心に立ち、不動蛍子はぐるりと首を巡らせた。

そこは人気の全くない、とある繁華街のテナント残骸が立ち並ぶ通りの一角にある一室だった。

そして一連の事件がカウントされ始めてから9人目の被害者が出てしまった場所でもある。


(恐らく犯人はあらかじめここに潜伏していた。そして獲物が掛かり、続いて戦闘が始まる)


蛍子は目をつむり、情景を脳裏に描き出していく。


(繁華街に触手を伸ばして誘いこむのは物理的に困難ね。では、こんな人気の無い所へわざわざ被害者が踏み込むのを予測していたのかしら?――にしては)


今回の被害者の死に様は、これまでのものとは決定的に違っていた。

先の被害者は8人とも、目につく外傷はほぼ頭部のみだった。

だが今回のものは…ひどく抵抗されたのだろう、この現場に未だ残されたままのおびただしい血痕を見れば一目瞭然だった。


(しかも被害者の指が全部折られていた…何のために?指を折ることで何かを確かめたかったのかしら)


姿を消した犯人のみぞ知る事実。

指の骨を折ったのは被害者が動きを止めた後だろう。折れ方から、強い力で殴りつけたことによる自損骨折でないことは検死により判明している。

先の私案のとおり、仮に予測能力に長けていたとするならば、標的の戦闘能力も予め掌握できたはず。

これまでの傾向からしても衝動的な犯行とも思えない。

なのにここまで抵抗されたのは、何か想定外の事態が起きたからだろう。

執拗な攻撃。指部骨折。
指を折る――指を曲げる…


(…まさか死んでいるかどうかを確認するために指を折った?)


ふと、昔は気付けに指反らしをしていたな、と色褪せた記憶が脳裏をよぎった。



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あきゅろす。
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