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「若菜さん、自棄になっては駄目…まだ死ぬ時じゃない」

「……あ?」


…死ぬ?言い回しに引っ掛かった歩が眉をひそめてジロリと沙凪を見下ろした。


「…あ、えと…なんか言い方変だったね。その…、だから感情的にはとても無理なのかもしれないけど…」


言葉に詰まりながらも歩の睨みに脅えも見せず、懸命に沙凪は訴えかける。


「もう少し――待って。お母さんが…警察が必ず、犯人を捕まえてくれるから」


沙凪の瞳は微動だにしない。揺れず反らされず、射貫くように真っ直ぐ歩に向けられている。

瞬きすら失念してその眼差しを睨んでいるうちに――何故だか、徐々に荒ぶる殺意がほどけて霧散していくのを歩は感じた。

虚を突かれたようで、意識にぽっかりと穴を空けられてしまったようで――表現しにくいブレのようなものを目の奥に感じ、彼女は二、三度まばたきをする。


「私、若菜さんにまで危ない目にあって欲しくないよ。死ぬとか殺すとか、そんなの嫌だよ」


ぽつり、とつぶやいてから沙凪は瞼を伏せた。

その時には――歩は次に何を言おうとしていたのかを失念してしまっていた。


「…お前さ」


ん、と見上げてくる沙凪に、ぎこちない微笑を浮かべ歩は続けた。


「お前……強いよな」

「え?そんなコトない、ゼンゼンだよ。よく泣きそうになるし…この前もケーキ屋さんの角で転ん…」

「いや、泣くとかそういう基準じゃなくな。お前みたいなタイプが一番強いんだと思う、たぶん」


しみじみと呟いた歩は湿った目を無造作に擦った。

その瞳の奥にあった昏い陽炎は、もう影も形もなくなっていた。


「私より若菜さんが強いよぉ〜、ぜったい!」


――変な奴だ。
不思議な奴だ、とも思う。

ふにゃふにゃと主観性がないようで、なのに土台には揺るがない芯があって、それは見えそうで見えなくて、いつの間にやら信用させられている。

間近で目を見て――今はっきりとそういう印象を沙凪から感じた。

そういえば人前で悔し涙なんて流してしまったのは、こいつが初めてだったかな…とも。


「…まあ…戻るか。教室」

「はぁーい」


一緒に並んで教室に戻るかと思いきや、歩はいつものようにしっしっ、と沙凪を手で払いながらも、その口元は穏やかに結ばれていた。



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