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明くる日も同じく、この時とばかりに日頃たまっているものを吐き出すような勢いで、その問題児の話題が飛び交っていた。
この異質としか言いようがない状況はしかし、皮肉にも教室内に活気を産み出しているように傍目には見える。
悪意の中の歪んだ笑顔。
教師ですら別段咎めようともせず目立った反応も見せず、涼しい顔で聞き流している始末だった。
事実、その生徒は派手な茶髪という風体をしていて制服も無断改造している。その時点で充分校則違反ではあった。
しかし遅刻は時折あれど無欠席で成績は並、喫煙の形跡はあるものの物証はなく、特に校内で暴力沙汰を起こす事もないので明確な処置のしようも無く、教師も手をこまねいている状態――その女子生徒はそういう人間なのだった。
突如ガタン、と教室の後方で派手な音が響き渡った。
何?と一斉に視線が集まったその先に――その姿を目を停めた生徒達の表情がみるみる凍りついていく。
そしてそこに現れた、今や全ての眼差しの中心となったその人物はつまらなそうな仏頂面をして、
「半端な知識ひけらかすな。エスはまだ日本に流れてきてねえ。覚えとけ」
ハスキーな低い声が教室内をやんわりと凄んだ。
どうやら、実は彼女は薬の売人だとかなんとか、といった根も葉もない悪態が教室の扉ごしに聞こえていたようだ。
派手に響いた音に同じく驚いて振り返った沙凪だったが、ドアを足で勢いよく開けた時の音だったんだと安心する。
そんな中――今更話題を否定する勇気も無く顔を反らす根性もないクラスメート達は、何ともいえない空気を漂わせながらぎこちなく目を反らしただけだった。
ビデオの一時停止画面のようにしーんと静まりかえった教室内を、彼女――若菜歩は泰然と歩いていく。
やがて沙凪の席の前で足を止めた歩は、
「沙凪、ちょい顔貸せ」
目を合わせずぼそりと呟き、返事も待たずに教室を出て行ってしまった。
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