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…どうかしたのかな。


沙凪はその日もずっと、片隅の空席をちらりちらりと心配げに眺めていた。

もうかれこれ一週間以上欠席しているだろうか。教師に理由を尋ねても個人的な事情、としか教えてもらえない。

しかしその状況はむしろ喜ばしいといわんばかりに、教室内は今までにない解放感と活気に満ちていた。

それもそうだろう、まるで危険生物のように徹底的に煙たがられていた、とある生徒の姿が珍しく長期間見当たらないためだ。


「どっかの族と戦争やらかして死にかけてるとか?駅前の繁華街の奥で結構やってんでしょ?」

「いや、あの女は化け物みてーに強えんだ。俺は別の理由とみたね」

「え、あの噂マジもん?」

「妊娠中絶、ってアレ?」

「ケンカも盛んだけどあっちも盛んって?っげ、ドン引きなんですけど」

「つっても何げに美人だしなぁ。買い手なんていくらでもいんじゃね?」


――などという中学生とは思えないような無責任な中傷を、下卑た笑いも交えつつ、引け目も無く大声で騒ぎ立てている始末だった。


「……………。」


沙凪はクラスメートの心無い言葉に顔を歪め、席を立つと静かに教室を出た。

もう、限界だった。
悔し涙が込み上げてきた。
早く、彼女の元気な姿を見たかった。



――幸い中庭に人気はなかった。

沙凪は芝生の上に膝を抱えて座り込み、靴の爪先をじっと見つめた。

こぢんまりとした、しかし緑の多い中庭の中央を彩っている噴水から、ピチピチと優しい流水音が届く。


「若菜さん……」


沙凪はぽつりと呟き、膝に顔をうずめた。



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