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と、その時――心臓の動きを止め力なく閉ざされていた筈の瞼が勢いよくぱっ、と見開かれ、跳ね起きざまにその人物の両手首を掴むと自身の両膝に力任せに叩き付けた。

ごきん、という爽快を感じさせるような渇いた音がして、その細い腕があっさりと反対側に折れ曲がる。

流れるようなしなやかな反撃を受け、その人物は目を真ん丸に見開いた。

本来曲がらない方向に折られた腕に痛みを感じないのか、身もだえも表情を歪ませもせず、そして静かに立ち上がると再び彼と対峙する。


「幽霊かと思ったが…生身の人間だな」


彼は不適に笑みながら、先程首を絞められた際に破裂してしまった鼻の血管から流れ出る血を乱暴に拭った。

手首をふらふらと揺らしながら後方に軽く跳躍して数歩分の間合いを取ると、腰を落とし右肩を半歩引く、という臨戦体勢をとった。


『どうして…生きてるんだい?』


当然ともいえる質問がきょとんと向けられた。声は呆然として掠れている。

確かに死んだ筈だった。彼の心臓は確実に止まっていた――


「…言っとくが、俺はあと数回は生き返るぞ。あんたはどうやら奇妙な力を持っているようだが…俺もそうなんでね」


口蓋内に少しだけ流れ込んできた鼻血をぺっと床に吐き捨てる。

彼の言葉に、その人物は何とも言えない表情をじんわりと口元に浮かべていった。

その表情は恐らく――
恍惚に近い。


『もしかして"命そのもの"をストックできる、と?それは……』


自分の発言の内容に陶酔しているのだろうか。口の端をきゅうっと吊り上げ、感激にうちふるえている。


『美味しそう、だね…』


ひひっ、と体をのけぞらせて笑うヒステリックじみた気色の悪い様にちっと舌打ちし、彼は表情を歪ませた。


「戦場で死を悟った同胞から譲り受けた命だ…てめえなんぞにくれてやるか、クソが」


彼は傍らに落としてしまっていた赤い大きな紙袋を右足で弾き飛ばした。

手荒だが仕方ない。

それは最後まで守り通さなければならない、今年14歳になる妹へのプレゼントだったのだから。



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