3
そうして父と母は彼女の目の前で呼吸を止めた。
その日、彼女が永遠に失ったものは――すべてとの繋がりだった。
***
まだ幼すぎる彼女には人の死というものが理解できなかった。
だから、少しずつ冷たくなってゆくその亡骸の傍らで、いつか両親が目を覚ますその時をただ静かに見守っていた。
細く小さな膝を胸に抱き寄せ顔をうずめる。
コーデュロイの生地の感触は肌には固く、寒さからか少しごわついているような気がして何故だか寂しさを誘った。
やがて頭に白いものがはらりと舞いおちてきては、すぐに溶けて消えていく。
彼女が座り込んでいるその場所にも、等しくはらはらと静かな音をたてて白いものが敷かれていく。
白い雪。
息も凍り付きそうな灰色の夕暮れ。
時間をかけてゆっくりと純白に犯されていくみっつの肉体。
彼女は真っ白い息を吐きながら、自分の首に巻いていたマフラーを青ざめた母親の顔に乗せた。
巻きかたが分からなかったけど、なるべく隙間ができないように丁寧に乗せた。
首を守るものを失った彼女は首をすぼめ、両腕でぎゅっと自分の体を抱き締める。
それでも、その小さな体の震えは一向に止まらなくて…白いものがとめどなく視界一面をよこぎって――
――そこまでは鮮明に覚えている。
なのにそこから後は霞がかかったようにぼんやりとしていた。
今でもまだ、失われた記憶の断片しか掴まないまま、そうしていつしか12年の月日が流れ過ぎていった。
今はもう…最期の繋がりである記憶のかけらすら薄らぎかけていて――
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