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とっさに息を止め耳をそばだて、じっくりと宙に目を滑らせていく。

しかしこれは――いったいどうした事だというのか。

音は聞こえてくるものの、どこから届いてきているのか方角が特定できない…というよりも、彼を取り囲む全ての方向から押し囲むようにして聞こえてくるような気がするのだ。

しかも靴音が少しずつ距離をつめてくるに従って、何だか…意識がふわつくような、甘美で奇妙な心地好さすら感じ始めた。

精神訓練も施されている己の変化に戸惑いを抱いた彼は、このまま詮索を続行するか早急に身を退くか、不安定な精神状態の中で懸命に考えを巡らせる。

が、実際は虚ろな眼差しをしてそこに突っ立っているだけであった。


こつり、と足音が止まった。

はっ、と彼の意識も同時に引き戻され覚醒するが、その時にはもう手遅れだった。

気がついた時には自分のすぐ眼前に一人の小柄な人間が佇んでいた。

そのほっそりとしたシルエットを瞳孔が認識し印象を焼きつかせたその瞬間に、彼の首は鷲掴みにされていて――
有り得ないことに、体格だけなら二倍はあろうかという体躯の彼を、片腕で易々と持ち上げたのだ。

ぎち、と鈍い音がして顎関節と脊椎が引き伸ばされていく。


『怖がらないで。大丈夫、君の命は全然無駄にはならないから』


彼の眼下で床から生えてきたように佇んでいるその人物は、時折咳ばらいのような神経質な笑い声を交えながら諭すように語りかけた。

急速に息が詰まって呼吸もままならない状況であるにもかかわらず、しかしまるで抵抗が出来ない。

首を掴まれたその瞬間、指先から身体中の力が吸い取られてしまったように、みるみる全身が弛緩してしまったのだ。


――そうして彼は、抵抗すら叶わないままに、じわじわと体内の酸素を失いやがて命を落とした。

どさり、とまるで物のように大きな骸が床に落とされ、白い埃を舞いあげて視界を汚す。

ヒトとはかくも脆弱で、ちょっとした衝撃ですぐに魂を手放してしまう生物。

そうして肉塊となってしまった物を観察するような表情で見下ろしながら、その人物は緩慢な動きで傍らに膝まづく。

ほっそりとした腕を伸ばし、まだ温かみを残す彼の額を両手で包みこんだ。



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あきゅろす。
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