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しかし聖のささやかとしか表現できない窮策も虚しく、もちろんながら男は道を迂回しようとはしない。
どんどんと接近してくる大柄な男の体躯。
自身の足の裏は、望まない迷宮に踏み込んでしまった迷い人のように、固く地面に貼りついたままでいる。
やがて男は『ちょっと失礼』と意外に柔らかい物言いで聖に道を譲らせ、その通路に入っていってしまったのだった。
「…………。」
聖は――しばしの間、その男の後ろ姿を見送っていた。
その動かない表情の奥にどんな感情が漂っているかなど、傍目には分からない。
やがてポケットに再び両手を入れた聖は、何食わぬ顔で再び少女達の方へと歩き始めた。
しかしポケットの中の拳は爪を食い込ませている。
「どしたの?聖ってさぁ、たまにいきなりワケ分かんないんだよねー」
葵は首を傾げ、紫は平常運転の無表情で、二人の目はじっと聖を見上げている。
「覚悟を決めてたのよね。ほら、着いたみたい」
あそこでしょ?と紫の人差し指がちょいちょいと指した。
赤い板屋根も鮮やかに、もう目鼻の先に有名チェーンのクレープ屋とやらがあったのだ。
…そんな訳があるか。
彼の表情には、そんな心の重圧などおくびにも出ることはなかったが。
仕方のないことだった。
…そう、仕方のない事なのだ。結局のところ、どうにもできはしないのだ。
靴先を見るふりをして顔を俯かせた聖の表情が一瞬だけ歪んだ。もちろん二人には見えないように。
なぜ彼が唐突に奇妙な行動を取り、一人で静かに苛立っているのか。
――その答えはもうじき、運命を紡ぐ糸によって導かれる。
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