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そして、前しか見ていない聖がさっさと公園から姿を消してしまっている事に二人は気付く。

はた、と顔を見合わせた葵と紫は、まってーと叫びながら並んで彼の後を追った。




駅に近付くに従って雑踏は増していく。

この時間帯は一日の中で一番、様々な立場や境遇を抱えた数多の人間が交錯する渦のような時間だ。

そしてやはりここでも彼は過ちを犯してしまう。
彼自身"過ち"と称している"それ"を見てしまう――



不意に、二人の前を気怠げに歩いていた聖の足取りが一瞬だけぴく、と動きを鈍らせた。

しかしそれはほんの一瞬の事だったので、背後にいる葵と紫は気付いていない。

聖は目だけでその人物を追った。その先――前方から向かってくる通行人の中の、ある人物に。

聖達三人の前方からやってくるその男は、筋肉質の大柄な体躯に銀色の鋲だらけの黒革の上下、という大仰で迫力のある出で立ちをしている。

黒目がちの、どことなく少年のような愛敬を感じさせる顔立ちだったからいいようなものの、独特の足運びといい体格といい、素人目にも明らかに『ただの一般人じゃない』と分かる雰囲気が全身から醸しだされている。

それもそのはずで、彼は高校卒業後の人生を陸上自衛官として国に捧げた軍人の一人だった。

今日は久しく手にした自由休暇を、歳の離れた妹の誕生日プレゼント選びに費やしているところだった。


――殺那の迷いだった。その男に声を掛けようか聖は迷った。

だが声を掛けたところで、そこにどんな雄弁があろうと、間違いなく理解など得られないのだ。

ごく近い未来――これから己が身に降りかかる出来事を、見ず知らずの少年に言い含められたところで。


だから――"そこ"へと続く通路の前を塞ぐようにして、聖の足は止まっていた。

だがその先、それからどのようにすればよいものか、名案が脳内に浮かんできてくれない。


「?…聖、何してんの?」


いきなり立ち止まって考えこむような目をしている聖に追いつき、背中に鼻をぶつけそうになってたたらを踏んだ葵が不思議そうに見上げてくる。

その声は今の彼の意識には留まらない。彼はただ、静かに焦る。


――この通路さえ、男に踏み込ませなければいい。ただそれだけの事なのに。



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