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聖は紫のいる場所から少し離れたフェンスに寄りかかって座り、アラームを仕掛けた携帯を手にして目を閉じている。

始めのころは、また絡んでくるのではないかと多少構えてはいたが、意外にも彼女は何も言ってこない。

カシャン、と少し遠くでフェンスの鳴る音がしたから、大人しくしているのだろう。

しばらく無音の時間が刻まれた。かさりとも音がしない。

ただ、遠い先から音のない風と、校庭や校道からの生徒達の談笑などが小さな旋律となって流れてくるだけだった。

聖は薄く目を開けて、横目で紫の様子を見てみた。

少し離れたそこで、フェンスに背を預けて腕を組んで目を閉じる紫がいる。

――なぜか彼と全く同じ姿勢だった。


「…あんた、何か望むものってあるか?欲しいものとか」


まさか視線に気づかれたのだろうか。目を閉じたまま、何の前触れもなく紫がそんなことを尋ねてきた。

突拍子のない質問だったが、別に望むものも欲しいものも何も思い浮かばなかったので、彼は無言でやり過ごす。


しかしこの時、彼はある意味奇妙ともいえる違和感のようなものを感じていた。

ふと思う――なぜだかは分からないが、煩わしくないという事に。

紫の存在が、まるでどこかから取り残された残像のようで、別の表現をすると存在感そのものがひどく稀薄――そう感じたからだろうか。

その若さで既に極端な人間嫌いに陥っている聖にとって、他人からこんな印象を抱かされたのは初めてのことだった。



その理由は――そのうち解ることだろう。

その日、その時が巡ってくれば、嫌でも解るしかないのだから。



そして――この奇妙な少女と聖の屋上での出会いは、このあと別の次元で紡がれる運命と同じループを辿ってやがて、堕ちていくことになる。


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