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――教室に漂う雰囲気が様変わりしている。
何というか、例えるならば浮足立っているという表現が恐らく近い。
中間試験を終え、普段目に見えて沈着を纏わせている学生達も、さすがに今日は緩んだ表情を隠せないようだった。
何より彼等が心待ちにしていたのは、放課後に南館の職員室前の掲示板に掲出される、中間試験の総得結果なのだった。
久しく味わう安堵と、見えない不安への緊張感と懸念とが入り混じった、皆が一様にそんな顔をしている。
いや――正直なところ今の彼にとっては、そんな事はどうでもよくて――
椅子に浅く座り込み背もたれに寄りかかる、という少々悪めの姿勢で腰を据えながら、聖は今日も窓の外をぼんやりと眺めていた。
透き通るような一面の青に、ぽつりと一つだけ小さな丸い雲が取り残されている。
吹く風に少しずつ形を変えていくそれを眺めていると、
「何か面白いものでもあるのか?」
割り込むように呟かれた背後の声を、聖はしっかりと無視した。
声の主も聖を真似るようにして、窓の外に感情の読めない眼差しを向けている。
「風紀委員長、転入生には親切にしろ」
同じ方向に向けられている顔から、聖にしか聞き取れないような低い小声がさらに絡んできた。
(一体何なんだ…)
半眼でうんざりしながら、彼は一貫して無視を貫いた。
***
――中間試験の真っ只中。
誰もが自分の事で精一杯になっていた最中、彼女は突然現れたようにひっそりと、いつの間にやらそこにいた。
あの時、親の命日だったあの日、屋上で聖が遭遇した長髪の女生徒だった。
先日、尋ねてもいないのに葵が喋ってきた話によると、
『中間試験の前日に転入してきたコ、時期が時期だけにクラスに溶け込みにくそうで何だかカワイソーだよねー…』
転入生らしかった。
先日の遭遇は、おそらく学校の下見も兼ねていた際の出来事だったのだろう。
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