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そうして、その想いと己が身に宿す能力がゆえに今、選べない二極のはざまで悩まされている。


(ここに安置される遺体の全ては生前、モゥルの調査によると因子を保持していた。能力者のみが狙われ完璧な機略でもって暗殺されている…。犯人の狙いは何?因子そのものへ向けられた怨恨?それとも……)


蛍子は頭を抱え、力なくセラミックボックスの縁に腰かけた。

既に過去十五年間の殺傷事件のデータは調べ尽してあるが、そのいずれにも類似事件はなかった。初犯に間違いない。

プロファイリングにおける見解では、犯人像は臆病と自己顕示欲の強さを併せ持つ10代〜20代の男、とされている。

そしてどのような手段を講じて能力者を嗅ぎつけているのか。

…分からない。

しかしどうしようもなく分かっている事が一つだけある。


「私か、モゥルか、沙凪が…このままだと狙われるわね」


あるいは全滅か。彼女の唇がぽつりとひとりごちる。


(さて、どうする…?)


薄暗くひんやりと冷たく、窓ひとつない物寂しい密室の中で、その後彼女はじっくりと自問自答を繰り返したが、明確な打開策などそう簡単に閃くはずもなかった。

しかし、沙凪だけは。
沙凪だけは守らなければ。

どうせ既に低レベルとはいえ反逆行為を犯している身だ。

娘が因子持ちである事実を中枢に告げず情報を隠匿した罪。娘の心を守るそれだけのために犯した罪。

だからもう、この身がどうなろうと。

そういう想いも彼女にはあった。だから――


「そうか…餌にもなる、という事ね…」


蛍子は怜悧な光を眼に宿らせ、鋭い笑みを浮かべた。




まだ――ここは昏い迷宮の、入り口のほんの一歩目に過ぎない。

護る者、護られるもの、
屠るもの、屠られるもの、
深淵に潜まる獣、
操られている事実すら知り得ず弄ばれ、置かれた境地を幸か不幸か選べない少女、
夕凪の下で流されていく赤いもの、
裏切りと憎悪と復讐、
烈しく燃える炎のように、

それらはかくも美しく醜く、そして――




♯優しい嘘なら
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