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(これは…一体どういうことなの?)


電球の白光ひとつが、その部屋の唯一の光源だった。

不動蛍子は勤めを終えた後、地下二階の奥まった場所にある遺体安置室にいた。

遺体を冷温処置してあるため、洩れ出た冷気で部屋まで心なしかひんやりとしているように感じる。

しかしその肌寒さとは別の理由で、蛍子は鳥肌と戦慄を抑えきれずにいた。

この部屋には司法解剖済みの遺体も含め、今は八体の仏が引出式のセラミックボックスに収容されている。

ただ、ここに収められているのは蛍子が追っている件の事件の被害者に限られていた。

そうして今日。膠着状態が続いている捜査陣を嘲笑うように新たに加えられた一体の顔を目にしたとき、彼女は驚きのあまり言葉を失ったのだった。


表情を呆然とさせた蛍子はしばらく動きを静止させている。

ジジ…、照明が震えた。

ハッとした蛍子は首に吊した携帯電話に手を伸ばしながら、おぼつかない足取りで数歩後じさり、短縮ダイヤルを押してあるところへ発信する。

五回ほどコールが続いたあと、ピピッと鳴ったかすかな電子音を耳元で確認し、自分のシリアルナンバーと認証コードを入力していく。再び携帯を耳に当て、待った。


『コード028079。クリムゾン様ですね。認識完了。接続します』


プログラムの電子メッセージを聞き流した彼女は、重々しく口を開き始めた。


「…確認したい事があるの。今、私の目の前にある死体がB2級のアザレアであるかどうか調べたいのよ。至急、彼女に接続できないかしら」


言った後、彼女はコンタクトが通るまでじっとりと待った。

しかしすぐに落ち着き無く踵をコツコツと鳴らし安置室内を歩き回る。


『お待たせ致しております。端末ナンバーB2級アザレアとは接続不能です。所在は不明』


受話口から流れてきたのは、人間とも機械ともつかない不自然な声だった。

蛍子は落ち着くため、強く目を閉じ声を落とした。


「…現段階で反逆レベルにカウントされている因子は?」

『現在の反逆体はユミールのみです。しかし幹部使徒は含まれませんが』

(…ユミール?逸聞の因子じゃないの。システムはそんな偶像を間に受けているの?)


思いがけない単語を耳にしたことで、意識が一瞬、逸れてしまった。



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