3 『血を見るだけで卒倒していた頃の、青ざめた君の顔を思い出すと目頭が熱くなるよ。まあとにかく、私も君も…恐らく沙凪ちゃんも危険の範疇さ』 危険の範疇。 つまり命に係わるかもしれないと、にこやかな印象で彼は締めくくった。 「沙凪、も…」 蛍子は沈んだ表情で言葉を詰まらせ、思案を巡らせながら天井を仰ぎ見る。 『…で、どうする?』 彼はただひとこと、そう尋ねてきた。 蛍子の真意はもう汲めているだろうに、それでも彼女自身の口から聞きたいのだろう。 彼からの催促に、蛍子は諦めたように鼻で小さく息をついた。 「…四六時中とは言わないわ。本来なら私の役目なんだけれど…あの子が一人になる時間帯だけで構わないから引き続き護衛して貰えないかしら。今、手をつけてる案件…まだもう少し時間がかかりそうなのよ」 娘に聞こえている筈もないのに、蛍子は小声で低く囁いた。 まるでそこには何らかの後ろめたさでも潜んでいるかのように。 『私にも仕事があるのに人使いが荒いなあ…とは言いませんよ。私には君の頼みを断る理由が何もない。喜んでお引き受けしますよ、不動刑事さん』 「ありがとう、恩に着るわ」 蛍子は、電波の向こう側にいる見えない相手に向かって深々と辞儀をした。 ――己のたてた予見を始めから完全否定する者などこの世には存在しないだろう。 そこに確信、信認をもてるからこそ堅守的にもなり、意志に基づいた行動に移ることが出来るのだ。 これまでに積み上げてきた粒々辛苦を、努力を、何もかもが無駄なのであったと、初めから悟ることが容易にできるものなのであれば、未来は―― 定められた運命は、ただひとつにしか収束しない。 そうしてここで分かたれた彼女らの運命の終着点は―― ≪ SANA SIDE ≫ [前][次] |