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制服姿で画廊の扉を開けた沙凪は店内にさっと目をはしらせ客がいないのを確認した。


「お疲れ様です店長〜…てんちょー…?あれ、また店ほっぽってどっかにいっちゃったのかなぁ」


店の奥に声を掛けたが、いつものように返事が返ってこなかったため不思議そうに小首を傾げた。

しかしそれはよくある事なので、沙凪はそれ以上気にする様子は無い。

いつもの自販機まで煙草を買いにでも行っているのだろう、で片付けた。

沙凪は画廊の奥にある暖簾をくぐり、座敷のクローゼットに吊させて貰っているワンピースに着替え紺のエプロンを掛けた。

そしてなぜかハタキを片手に商品の在庫チェックから始める。

ひととおりチェックが終わったあたりで、扉の銅鐘がカランコロンと柔らかい音を奏でた。


「いらっしゃいま……あ」


沙凪は笑顔を深くした。
顔を向けたそこには、華奢な体格に不釣り合いな大きな鞄をたすき掛けにした少年がつっ立っていた。

少年はおどおどと覗うように店内を見回していたが、沙凪と目が合うとにっこりと笑う。

笑うと女の子のように愛敬のある顔になる。


「不動さんのバイト先、ちょっと見たくなって」

「あはっ…でも朔夜クンにはつまんないかも…」


沙凪は申し訳なさそうにしながらも、顔は嬉しそうにほころんでいた。


――その少年は蒼木朔夜といって、沙凪と同じ風城学園中等部に在学している。

そして彼女と彼は属に言う『つきあっている』間柄だった。

中学二年生になって数ヵ月経った頃、朔夜が沙凪のクラスに転入してきて、机が隣同士になったことで沙凪から掛けられたちょっとした会話がきっかけになった。

けれどお互い告白したりした訳でもなく、いつの間にか、そうなっていた。

二人はある意味ストイックで、まだ手を繋いだ事すらない。

ただいつも一緒にいて、一緒に楽しい時間を共有しているだけの――たかだか中学生とはいえ今時珍しいほど酸っぱく稚拙な恋愛をしていた。



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