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そして今日という日も、冷たい雨を降りしきらせ一日を終わらせるのだろう。



かれこれ、もう三日を数えるだろうか。

こうまで太陽の光が届かない日ばかりが続くと、人の心に陰欝が敷き詰められてしまうのも致し方ない。


連日の雨によるものでなく、既に以前から心を冷え切らせていたその少年――
彼、河合聖は、何の感情も見えない眼差しで教室の窓から厚くたれこむ暗雲を眺めていた。

学生である聖は、数日後に中間試験を控えている。

彼の通う中等部は進学校であるため、学業競争は熾烈を極めると言っても過言ではなかった。

ましてや年明けには人生の岐路の一歩ともいうべき高校受験を控えている。

中学三年生の彼らにとって、もちろん比喩だが内申点は命の次に大切であり、名門煌和学園の名に恥じない進学先を選ばなければならない。

でなければ生き恥である、といった何とも恐ろしげな暗黙の因習すらあった。



――話を戻すと、この学園では試験前の授業が自習に変更される事が多い。

時間を持て余さざるを得なくなった聖は、今日に限って愛用の参考書を持ち合わせなかった事を悔やみつつ、ぼんやりと空を眺めて時間をつぶしていたのだった。


「…ねえ、河合くん」


教師が職員室に引きこもっていると分かりきっていても物音一つ、いやノートに書き込むかりかりという乾いた音しか響かせない教室の中。

こっそりとした小さな囁きに、彼は返事の代わりに目だけをそちらに向ける。

横の席から含みのある目線を送ってくる声の主は河合葵といって、聖の従姉弟でもある。

聖にとってとりあえずは心を許せる唯一の人間だった。


中等部ではとにかく内申点がモノをいう。

聖は葵がどういう人間なのかをもちろん熟知しているが、学校での彼女の粛然ぶりには正直なところ内心呆れている。


「もし良かったら英文のノートを貸して欲しいんだけれど…」


控えめなそぶりで小首など傾げながら囁く仕草に半眼になりつつも、無言で葵の手元へノートを差し出した。

そして一瞬だけ悪戯っぽい表情になった葵からウインクを飛ばされるのはいつものことだった。



やがて自習時間が終わり、聖は葵から返されてきたノートをつまらなさそうにめくる。最後のページを開いて手の動きを止めた。

ノートの端に、鉛筆で小さな書き込みがされてあるのを見つけ、そしてそれにちらりと視線を走らせる――これもいつものことだった。



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あきゅろす。
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