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「私の何が悪かったの…?どうすれば…よかったの…?」
救いようがないくらいに震えている声が痛ましい。歩が顔を歪め、沙凪から目を逸らした。
「私の何が悪かった?それは君がすべての末路を導いたことじゃないのかな。君が生温い平穏に縋り付くだけの愚かしい人間だったから、誰も守れなかったんだよ。君が能力の出し惜しみなんかするから、みィーんな無駄死にしたんだよ、不動沙凪…!」
それは弱りきった一握りの理性を徹底的に打ちのめす毒のような言葉の一撃だった。鮮烈な悪意だった。耳障りな嘲笑が張り詰めた空気を犯し、静かな部屋にビリビリと反響する。
沙凪の顔から完全に表情が抜け落ちた。そして息をしているのかも分からないくらい微動だにしなくなった。
「…おいバケモノ」
気持ち良く昂ぶっていたところを遮ってきた歩に、朔夜の横目が嫌そうに向く。見ると、歩の表情が何やら緊張に強張っていた。
「散々お前のことバケモノ呼ばわりしたけどな、バケモノはお前じゃなかったわ…」
「…何?」
「今の話…マジで全部知らされた通りだったな…信じらんねぇ…」
「はぁ?」
理解することのできない独白は、朔夜の内に苛立ちを生み出させた。
「バケモノはお前なんかじゃないっつったんだよ。お前じゃなくて…」
言葉を切った歩が、畏怖をこめた眼差しをゆっくりとその人物に合わせる。
「あいつみたいな奴のことをバケモノっていうんだ。なあそうだろ?――沙凪」
「……なに?」
いきなり何を言い出すのだろうかこの女は。沙凪に至ってはもう使い物にならないくらいに壊れて茫然自失としているではないか。ただただ怯えて縮こまっている無様で無力な女が、どうして化け物だなどと言えるのか。どうして一分の怯えも見せずに果敢に挑んできた女が、今さら沙凪なんかにそんな目を向ける?何を畏れることがある――
疑問符しか頭に浮かばなかった。歩の言わんとしていることの意味など、何一つとして理解に至れなかった。
歩はなおも警戒するような目線を沙凪に投げかけながら唇を開く。
「あたしの服に携帯を忍ばせたのも、あのメールを送ってきたのもお前だな?」
「メール?」
話についてこれない朔夜がイライラと眉間を歪める。邪魔するなとでも言うように、ギロ、と歩が朔夜に目を戻した。
「テメェに命を補填する能力があることも、神経毒を持っていることも、それらが誰から抜き取られたのかも…、」
朔夜の表情がゆっくりと変わっていく。
「テメェが今までにしてきたことも、次にテメェがどこに向かうのかも…そのメールには全部書いてあった」
「…まさか」
「あたしだって正直半信半疑だった。でも現に…」
当の沙凪はじっと俯いたままで、どんな反応も浮かべていない。だから歩の言葉の真偽性が計れない。
朔夜は探るような目を沙凪に落としていたが、結局は鼻で小さく嘲笑した。
「まあ…よしんば俺の正体が分かったところで、だからどうだというんだ?お前らの勝機が1%ぐらいは上がったか?残念なくらい何の役にもたたんな」
確かに朔夜の言う通りかもしれない。しょせん犬死にを免れる程度の収穫しか得られてはいない。まだ余裕のある朔夜の様子から察するに、ストックされた命はまだまだあるのだろう。負傷した歩がそれらに対抗できうるかどうかは――楽観できない状況であることに変わりはなかった。
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