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 挑戦的に放たれたその台詞に、彼はぎこちない動きで起き上がりながら心底悔しそうにぎりぎりと歯軋りをしている。


(この女……!)


 こんな、何の特殊能力も持たない小娘に、四人分もの命をあっさりと奪われてしまった。完全に想定外の事態に、朔夜は半ば戦慄に近いものを憶える。
 もう一分の出し惜しみもしていられない。このままではじわじわと命を毟り取られてしまう。
 短い思案のうちに歯軋りは終わっていた。ただの悔し紛れの歯軋りなどではない。それは、ある能力者が用いていたものだった。歯軋りをシグナルとしてギアチェンジをし、熱を溜め、そしてこのように――

 朔夜が素早く右手を振り上げた。チャ、と歩の拳銃が煌めく。しかし次の瞬間に鳴り響いたのは、朔夜の真正面に仁王立ちになった歩の手の拳銃が、かちり、と虚しくたてた空音だけだった。
 弾丸が尽きたのだ。朔夜がニィと笑う。弾丸の尽きた拳銃などただの鉄の塊でしかない。


(今度こそ終わりだ、若菜歩――!)


 絶対的な勝利を確信した朔夜は、爆風で体が弾き飛ばされないようにざしっ、と足元に力をこめ、旋風のように右手で空を凪いだ。
 その軌跡に沿うように、不可視である超高気圧の塊が唸りをあげながら歩に迫っていく。
 沙凪の母から奪ったばかりの能力『クリムゾン』。大気に接触すると爆発的な昇華を果たし、着弾とともに弾け飛ぶ――

 けれどこの時。手の中の拳銃が虚しい音をたてたことにも、目前に迫り来る危機にも、歩はわずかな動揺すら浮かべず、何と言うことか――左腕を振り上げると、勢いよく横に振り払ったのだ。
 どうん!と鼓膜を揺るがす轟音とともに、使い物にならなくなった拳銃を軸にして素早く受け流したとはいえ、歩の左腕から鮮やかな赤が飛び散った。腕は一瞬で真っ黒に焼け焦げた。
 化繊のサバイバルスーツが焼け焦げる嫌な匂いが、むっと部屋に充満する。


「っな……!」


 そして――侍の居合貫のような流れる動きで腰のベルトに挟み込んであった黒い棒のようなものを抜き放つと、抜き放つ勢いでしゃきん、と鋭く伸びたそれを、完全に呆気にとられていた朔夜の胸めがけて横薙ぎに叩き込んだ。


「っがぁあああっ…!」


 びぢぢぢぢっ!鼓膜に痛いスパークが目にも鮮やかに炸裂する。朔夜は成す術もなく全身から黄色い電流を迸らせ、たまらずその場に昏倒した。体中の細胞という細胞が毒を飲みこまされたようにうち震え、生命活動を手放していく。体の末端からすべて、髪の毛一本に至るまで激痛がはしり、未だ経験したことのない強烈な痺れに襲われた。


「っぐぅっ……!」


 膝をがくがくと笑わせながら、慌ててその場に立ち上がる。


「そ、それは…!」


 かちかちかち…という伝導コイルのヒートダウン音が、歩の手元から発せられている。


「違法改造のスタンガン。こんな時にしか使えないようなポンコツだけどな」


 額に脂汗を浮かべた歩が言い放つ。そしてわずかに目を細めると、まるで物でも見るような目を己の左腕に向けた。そこからはまだぶすぶすと細い煙があがっている。


「お前、マジでバケモンだな…何ださっきの爆弾みたいなやつは」

「…見たとおりのものだ」


 息を整えながら、警戒心を断つことなく朔夜が歩を睨むように見つめる。


「へぇ…。お前もたいがい役に立ちそうにないモン持ってんだな。あたしのスタンガンみてーにこんな時にしか使い道ねぇだろ」

「そうでもない。そうだな……まぁもうすでにお前は知ってるようだが、『命を補填する能力』、こればかりは最高の拾い物だった。あのマヌケな軍人には心底感謝している」

「軍人……?」


 その二文字が、歩の何かに引っ掛かったらしい。彼女の表情がスッと静かになった。



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あきゅろす。
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