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3


 自分で自分が不思議だった。そう思ってしまうほど、焦燥感につき動かされていた。


 あれだけ不毛な思案を繰り返したというのに、結局葵から何も聞き出せないまま放課後を迎えた。書店にも図書館にも寄らず、まっすぐ帰途についた。今日ばかりはゆったりと足元を踏み締めながら歩いていられなかった。

 ガチャ、と荒々しく部屋のドアを開け、クローゼットの扉に手をかける。掛かっている服を掻き分け、制服の上着を見つけだし引っ張り出すと、一息にカバーを剥ぎ取った。
 祈るような心境でポケットに手を差し入れ、指先にかさりと渇いた感触を確かめた時には安堵の溜め息をつきそうになった。
 ぼす、とベッドに腰を落とし、普段目覚まし程度にしか活用しない携帯電話を鞄から取り出すとメール作成画面を開いた。慣れない仕種でかちかちと短い文章を綴っていく。


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to:立花

本文

生きてるか?

河合

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 アドレス入力に少々手こずり、一連の動作で送信ボタンまで押してしまい――しまった、と思った時には送信が完了していた。『生きてるか』だけの、ひどすぎる文章を唖然と見下ろす。唇をうっすら開けまばたきもせず携帯電話の画面を凝視していたらしく、画面の照明が落ちたことでハッと我に返った。
 どこか呆然とした面持ちでカチリと携帯を閉じる。
 と同時に、晴れすぎた屋上の風景が脳裏に蘇った。


『――場所は』


 返事は返ってくるだろうか。いや返ってきてくれ。返ってこい。


『――俺の目の前だ』


 嘲笑うように過去の情景が眼窩の奥でちろちろと揺らめく。
 …自分は運命の切れ端どおりに事が運ぶとは思っていない。目に見えない『可能性』の威力は図り知れないからだ。たとえ、これまでに拾い上げた運命を見誤った前例が過去になかったとしても。

 携帯を枕元に放り投げようと腕を軽く振ったとき、手の中にブブブという鈍い振動が突然訪れた。指の隙間から水色の光がまたたき、受信を知らせている。
 まさか…とは思わなかった。普段滅多にヒトと繋がることのない携帯が、今このタイミングで他の機能を果たすとは思えなかった。
 閉じたばかりの携帯をまたカチリと開く。画面に表示された便箋のデフォルメをクリックし、メールを開封した。


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from:立花
sub:Re:

本文

08054***881

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「…………?」


 数字の羅列。それのみで文章は締めくくられている。ともかく反応があったということは大事はなかったという事だが、


「携帯の番号…?」


 電話を掛けてこいという意味にしか受け取れなかった。さっき送ったばかりの殺風景極まる自分のメールよりもひどいというか…なんだか立花らしい気がした。
 リンクを経由して発信すると、呼び出し音一つ挟むことなく『プッ』と回線が繋がる。どんな些細な音も聞き逃さないよう、聖は全神経を耳に集中させた。



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