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「僕はあなたの力になりたい。けれどこのままの僕では、どんなに切望してもあなたのお力には到底なれません…ですが、あなたのお力を授けていただければ、必ずやあなたの為にこの目に映した世界の一端をあなたに差し出すことを誓います…!」

『……………。』


 少女はなおも無言でいる。時々ゆっくりと目を瞬く。地平線に沈みかけた紅に染まる世界を背景に、黒い瞳でいつまでも少年を凝視している。
 …しばらく、その状態が続いた。針の筵のような緊張感に刺され、少年は呻き声をあげてしまいそうになるのを堪えた。幾度もごくりと生唾を飲み下す。


『…では――』

「は、はい……!」


 じっとりとした無言の時間がようやく明け、ぽつりと少女の唇が薄く開かれる。
 期待に満ち満ちた目をパッと向けてくる少年を見下ろしながら、少女は涼やかな眼差しを細めにっこりと微笑んだ。


『世界に存在する歪なものを公正に調律できるよう、物事をそのままの形で吸収することのできる可能性を与える。だがそれはあくまでも可能性であって、その目に映すものをどう裁定するかはおまえ次第――見誤らないよう肝に命じること』

「あ、ありがとうございます!僕は…僕はあなたに尽きることのない忠誠を誓います!」


 涙を流さんばかりに感動をあらわにした少年を、少女は一瞬だけすぅっと目を細め一瞥した。その目の奥に隠された真意に少年が気づかない程に、ごく短く。

 風が、流れる。
 風は、少女のつぶやきを塗り潰すように吹いた。


『決して安穏とした運命を背負うわけではなくなるけど、ね――』


 唇だけの一言は、たとえ聞こえていたところで少年には意味が分かりかねただろう。
 少女はゆっくりと、どこか眠たげに瞬きをすると、再び紅い地平線へと顔を背けた。世界の果てで燃えるように煌めくそれに、目が心地好い痛みを訴える。
そうしながら、心の内だけで密やかに吐露していた。

(こんなことをしているから、私は同胞内では『抹消(イレイザー)』などという不名誉な二つ名で呼ばれてしまうのだろうな……)

 自嘲的な笑みを口角にクッと浮かべ、黒目がちの眼差しをそっと伏せた。ほんの一欠片だけ視界に残っている血のように赤い黄昏が、今このときを忘れぬようにと瞼の裏に濃く焼き付いていた。

 やがてそれが完全に消滅してしまうそのときまで、少女はその場を動かなかった。
 …浮かび上がっては沈みゆくものに、幾度目かもわからない懺悔を繰り返すために。



≪ Other side ≫


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あきゅろす。
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