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「これまで集めたものの中で、一番珍しいって思ったものはなに?」
「…え?」
「ほら、この前言ってたじゃない。珍しいレアアイテムを集めるのが趣味だ、って」
そう言い終えてすぐ、朔夜が応えようとする前に沙凪はふるふると首を振った。
「…やっぱいい。今聞いてもなんか――あんまり意味ないような、そんな気がする」
「ん、…まあ、同じような趣味や興味を持たない人にとってはつまらないだろうしね」
その言葉に、なぜか沙凪は小さくクスリと楽しげに笑った。先程までは、まるで『笑う』という感情をどこかに落き忘れて来たような様子だったのに――どこかいびつながらもその顔は確かに笑っている。
「何かを集めるコトってさ、集めてるときはすごく夢中になっちゃうよね。で、ある時ふと、なんでこんなものを今まで必死になって集めてたんだろーって急に気づいて醒めちゃったり」
「あーそれ、あるかもね」
「だよね?それにさ――」
朔夜は沙凪の話に合わせてうんうんと和やかに相槌を打っている。そして沙凪の方は――口ぶりも至極いつもどおりで一見しっかりと会話を交わしているように見えるが、しかしよくよく見ると、その瞳の焦点はどこか微妙にズレていて、どこも見ていない。
「それに、それにね。ほかに特に趣味とかなかったり、それだけが生き甲斐だって思い込んだり勘違いしちゃったり…きっと生きてく中でそういうのってよくあることなんだろうし、それがキッカケになって思いもよらなかった出会いがあったりするんだろうけど…もし、もしもね。未来が分かるとしたらどうなんだろう」
「…………。」
「未来の果てまで見ることができたとしたら、苦しんだり哀しむようなこともないんだろうなあ、とか」
支離滅裂だ。話に脈絡がない。だからどうした。意味がわからない。
「そうだね」
彼は『蒼木朔夜』の穏やかで人の良さそうな口調と表情は保ったままでいたが、
(…ちっ)
内心では、忌ま忌ましげに舌打ちをしていた。
(この女…自分の手で母親を――いや、産みの親でないことも知らないままだったんだろうが…殺してしまったことが相当にショックだったようだな)
まるで魂が抜けたようだ。辛うじて言葉は発しているがそれも意識的なものなのかも疑わしい。…支離滅裂な話は聞き飽きた。しかしまだ消してしまうには早い。一ひねりで絶命させる前に、しておくべきことがあっただろう?
「お母さん……」
ぽつりと零した沙凪のつぶやきを朔夜は聞き逃さなかった。そのまま沙凪は黙り込む。
朔夜はじっとりと考え込んだ。邪魔者は二人とも既に消してある。だから焦ることはない。この女の精神状態が落ち着くまで待つか、締め上げて吐かせるか――とはいえあの刑事や分身が属していたシステムや、他の所属者との連絡手段をこの女が知っているかどうか確信は持てていない。さてどうする。殺して記憶を探れば簡単な事だがそれではつまらない。
…そんな事を、穏やかな表情を崩さないままとつとつと考えた。
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