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3


 ――今ではない時、ここではない場所。
 黄昏のもとに起きた出来事は、流れては消える星のように過ぎていった、ひとつの運命の別れ道だった。





『世界は何でかたち創られているのだろう』

 何とも曖昧で、とりとめのない印象を抱かせる問いかけは、今では少女の口癖のようになっていた。いつまでも答えにたどり着くことのできない疑問。絶対的で、永遠に消えない謎。いつまでも残り、いつまでも巡る。輪を描くように。


「聡明なあなたでも、お悩みになられることがあるのですね」


 ふっと少年の声が空間に浮かび上がる。そのほかはうすく引き延ばされた静寂が広がる。
 声は、うやうやしくも差し障りのない言葉を選んだ、羨望のこめられた柔らかなものだった。

 少年は、少女に近寄ることすら恐れ多いと言わんばかりに、声の届くぎりぎりの範囲、数歩ばかりの距離をおいて跪いている。頭を垂れ両膝をつき、足元に視線を落としたまま、少女の次の言葉を静々と待っていた。


『私は調律者の一人に過ぎない。おまえが語るような夢物語なんて、それは私が裁断をくだすところではないと思うが』


 少女の声色はぽそぽそと小さく平淡で、何の感情もそこからは見て取れない。元から少女は囁くような話し方をする。消え入りそうに小さいのに聞き逃したことがこれまでに一度もない。それが不思議だった。


「しかしあなたは優れた能力をお持ちです」


 風の流れが止まった。
 間髪挟まず被せてきた少年の言葉に、背を向けたままでいる少女からはどんな反応も窺えない。もしや聞こえていなかったのでは…と思えてしまうくらいに。
 少女が一瞬だけ眼差しの奥に浮かべた色も、もちろん少年は汲み取ることができない。


「不安定な世界の天秤に干渉しうる能力を携えながら、あなたはただ真摯に使命に従い誅するのみ。…僕にはそれが理解に苦しむのです」

『…苦しむ?』

「はい。あなたほどの力をお持ちなら、世界の中心近くに存在することすら可能です。あなたに思い立つところはないのですか、本当に…?」


 要するに何を言いたいのだと少女は唇を開きかけて、止める。代わりに微かな息をついた。聞くだけ野暮だった。
 再び凪ぎ始めたゆるやかな風に黒髪を乱され、細く白い指で後ろに撫でつける。続けろと、背後の少年に促すように。
 少年は緊張を深め、時間をかけて慎重に言葉を探し続けている。

 二人しか存在しない空間に、『…私は単なる調律者だ』と小さく余韻のない呟きがぽつりと響く。ハッと少年の頭が揺れた。

「はい」

『その目に映した世界を一つに収束するだけの、調律した現身を反映したのち世界に回帰するだけの、ただそれだけの存在だ』

「……はい」


 少年の声は目に見えて歯切れが悪くなった。少女は密やかに、小さく、憐れみをこめて、唇だけを歪めて微笑んだ。



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