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「…今から話す内容に対してあんたがどう思うかは俺の知った事じゃない。だから好きに解釈してくれていい」


内側のどこかがじくじくと痛む。勿体ぶった前置きをしている間、じっ、とした無言の視線を感じていた。
自分に向けられる視線の存在を肌で意識したのは初めてだった。


「理屈は聞くなよ…聞かれても答えられないからな。――俺には、見たくもないんだが人の未来の断片が見える。しかもそいつにとってろくでもないものほど鮮明に」


屋上の遥か遠いところに小さな雲がひとつだけぽつんと取り残されている。
それは薄い灰色をしていて、なだらかな風に煽られゆっくりと形を変えていく。


「…あんたのも見えた。数日前に要所がほぼ繋がった。正直、それからあんたの姿を見るのが嫌になった」


面差しを固めるのは慣れている。それでも体から漏れだしてしまう微妙な空気を完全に消せているかといわれると自信はもてない。

言葉を挟まず、じっと聴き入っている紫はどういう反応を向けてくるだろうか。ふとそう考えると苦いものが込み上げてきた。


「そう遠くない先、あんたは死んでしまうかもしれない。場所は俺の目の前だ」


決定的なところを言葉にした瞬間、現実味のない膜に包まれたような錯覚がおきた。
耳が詰まってしまった時のように、自分の声が離れた別の場所から聞こえてくる。


「だからこれから俺はあんたから離れる。可能な限り顔を合わせない。でもそんな単純なことでどうにかなるかは分からない」


そんな児戯のような手段で、定められた運命をねじ曲げられるのかどうかなど分からない。
それが相手の生涯の根幹を成すような大きな運命であればあるほど、変えられた試しがこれまでに一度もない。
自分にしか救済を差し延べられない、なのに何も出来ない。


今日は家から出ていかないでと、ひどく幼い頃に両親に懇願した。
――次に両親に会ったのは、寒くて暗い、遺体安置室だった。


ぼんやりとした遠い記憶。
今思えばそれからだった。負の運命に対面したとき、望まずも目の当たりにしてしまったとき、苦しい思いをしないために、辛い思いをしないために、常日頃から心の動きを止めるようになっていったのは。

外界を遮断することで殻を守った。
そして人に対して執着することも全く無くなった。
執着して親しくなった誰かの奈落が見えてしまうのが怖かった。

そう、怖かった。そこには必ず惨苦が伴われると分かっていた。

分かっていながら…分かっていたのに、それでもどうしようもない時もあって、どうしても抑えきれない感情もあるのだと、その事実に気づかされてしまう瞬間を畏怖していた。

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