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***


――そこから数メートルを隔てた屋外。

光沢のある通路上に伸びる影の中からそれらの様子を密かに観察している人物がいた。
彼は光景を愉しむようにそれまで浮かべていたニヤニヤとした笑みを、ふと止める。


(あのデカイ女は能力も持たない只の人間の癖に、尋常ではない身体能力だな…罠を回避したのはあの女か。…それにしても)


ドアの影が、ぐもり、と生き物のように盛り上がり蠢き始めた。
そこからは何食わぬ顔をした制服姿の華奢な少年が姿を現していった。

完全に肉体を地表に具現させた彼は、水しぶきをゆるく払うように顔を振ると、目を泳がせ何やら考え込む様子を見せ始める。


――それにしても不動沙凪が手にするあの銃器は何だ?見目と違いただの拳銃ではない。

人間の肉体を瞬時に溶解させた。何が秘密裏に行われているか分からないような不透明な社会情勢とはいえ、あれは官憲機関が闇で製造しているといったものではないだろう。

そして――不動沙凪は銃器の正体を知った上で使用したように見えた。


その結論に至った彼の目の奥に、ぎら、とした陰惨な光が灯る。

あの馬鹿親と長期間生活を共にしていたんだ。不動沙凪自身も何らかの情報――自分が求めている、有意義な何かを握っている可能性が高い。

それらを根こそぎ聞き出してからでも決して遅いということはないだろう。
殺してしまうのは。


――そこで彼の浮かべた微笑には、とてつもなく昏い、底無しの残忍さが滲み出ていた。


***


――ピンポン。

その音は、力なく座り込んで無言の間を共有していた沙凪と歩の肩をぴくりと反応させた。

玄関口から届けられた場違いに平和じみたドアベル音。そして――


「こんばんはー」


場違いに明るく響いた来訪者の声。

ああ?と、あからさまな不機嫌を浮かべた歩が、すごい形相で玄関口の方を睨みつけている。

その声を耳にした瞬間、沙凪はびくりと肩を揺らして顔を上げていた。
それは彼女にとって、ひどく聞き覚えのある声であっからだ。

袖で目許を拭いながら立ち上がった沙凪は、リビングを抜け出して玄関口へと駆けていく。

二人とも緊迫した状態で家に駆け込んでいたためか、ドアは薄い隙間を開けたままだったようで、そこから誰かが遠慮がちに顔を覗かせているのが見えた。

沙凪がドアを開け放つと、来訪者は目に飛び込んできた屋内の光景に驚きを表して上体をのけぞらせている。


「わあっ!ガス爆発でもあったの?不動さん大丈夫?」


室内の惨状を目にした彼は、目を丸くしながらふらりと玄関に足を踏み込み、きょろきょろと周囲の光景に目を滑らせている。


「…朔夜くん……」


沙凪が彼の袖を引っ張って家に引きずり入れたその背後で、かちゃり、と扉が閉ざされていった。



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