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「油断大敵ですねぇお母さん。僕は死んでなどいませんよ、残念でした」


嫌味たらしく鼻で笑いながら、彼――朔夜は爽やかに微笑んだ。

死んでなどいない?あれは誰の目にも致命傷…いや即死であるとしか映らないようなものだった。


(馬、鹿な…私の攻撃を直撃で受けて、無事でいられるわけがない…!)


これは一体全体どういうことなのだ。今まで幻でも見ていたのだろうか?
だとすればどこからが幻覚で、それはいつ終息するのだ?

驚愕に目を剥いて蛍子は朔夜を見上げた。

すぐ目の前にある、膝。そこから上に高くそびえる華奢な少年。高いところからこちらを見下ろし冷笑を浮かべている、敵。

以前会ったときの、あの謙虚さやおどおどした感などもはや微塵もない。


「なぜ死なない?とそうお思いでしょうね。いや、厳密に言うと僕は一度死んだんです」

「ぐっ……」

「あなたの戦闘能力だって既に知っていました。僕が娘さんの彼氏だから、油断してまんまと近距離に接近してくるだろうともね。あはは、馬っ鹿だなーお母さん。一流の戦闘員でもあるあなたが、情なんていうくだらないものでこんな間抜けな失態を犯すなんてね」

「…………!」

「ああ、そうだ。ちなみにさっき、僕は一度死んだと言いましたよね。でもそれは実は僕自身の命ではないんです。僕は今や、命を補填する能力すら備わっているんですよ。もの凄くレアでしょう?数週間前に隣町の繁華街でこの能力を見つけた時には、嬉しさのあまり気が狂うかと思いました」


(では…この能力は…)


全身にじっとりと冷たい脂汗が滲んで寒気がする。

己の身を以ってその事実に気がつかされたとき、自分の世界に陶酔しながら熱く語り続けていた少年が、いきなりぴたりと言葉を止めた。


「ああ、あなたは今僕の手と繋がっていますから考えている事が僕にも流れ込んできますよ。はい、ご推察の通り、神経毒を皮膚細胞を介して注入するこの能力は、アザレアとかいう女からいただきました」


(ああ………。)


ようやく――ここにきてやっと、蛍子にはこれまでの出来事の全てが脳裏で繋がった。

これまでに回収された遺体のことごとくが因子保有者――純粋因子ですらあった理由。
完全に単独の、愉快犯。
保有能力が増せば増すほど、やがてその恍惚に依存し、殺戮を繰り返していたのだということを。



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