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負荷によるものなのか、はたまた別の理由からか…倦怠感がずっしりと全身に重くのしかかる。
行動する気力が沸かず、何をしようとしていたのかを忘れてしまったようにぼんやりと――蛍子は黒焦げになった少年をしんみりと見下ろしていた。
(………?)
ふと、目を留める。
少年の首の辺りに何だか――焦げた服がこびりついているのだろうか、干からびた湖の底のような、規則正しい皹割れが無数に並んでいる事に気づいた。
何とはなしにその部分を爪で擦ってみると、その皹割れの一部がめくれて鱗のようにカラリと剥がれ落ちた。
そしてその下からは一体どういうわけなのか、何の汚れも傷痕もないすべらかな肌が覗いている。
蛍子は眉根を寄せ、腕にも指を伸ばして炭化した表皮を擦ってみた。
やはり同じようにからからと黒い鱗がめくれていき、下からはまったく無傷の肌が現れる。その様はまるで、さながら爬虫類の脱皮のようで――
「これは…?」
この状況が妙だということにようやく彼女は気づき始めた。がしかし、その時にはもう手遅れだった。
ぱちり、と目を見開いた黒焦げの死体――たった今しがたまで死体であったはずのそれが、蛍子の眼前で素早く上体を起こしたのだ。
瞠目する彼女の視界を貫くように勢いよく伸びてきた腕は、正確に彼女の首を鷲掴みにした。
「くっ……!」
完全に虚を突かれてしまった。避ける事ができなかった手の感触に、怖気と緊張がさっと全身に張り詰める。
抵抗するため手首を掴み返したが、しかしこれは一体どういった訳なのか――捕まれた箇所から波紋が広がっていくように、体中の力がどんどんと抜けてゆくのだ。
まるで力を吸い取られていくようだった。
寸刻もたたずに蛍子は跪く力すら失ってしまい、肩からその場に崩れ落ちていた。
「ぐ…っ…」
蛍子は歯を食いしばり全身に力を籠めた。
起き上がろうと必死でもがいているつもりなのに、指先すら自分の意思通りに動こうとしない。
まるで体中の神経を引き抜かれてしまったような酷い脱力感がのしかかり、呼吸をするのさえ億劫だった。
死んだ魚のように倒れ伏した蛍子の姿を見下ろしながら、全身の鱗をぱらぱらと払い落としていく少年の勝ち誇ったような目と視線が交わった。
少年の口の端がきゅうっ、と歪められていき、頬をもたげて笑みの形に変わっていく。
貫かれた胸の風穴ですら、いつの間にか塞がっているようだった。
――蛍子は自分を見下ろすその眼差しの奥に、救いようのない狂気を感じた。
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