3 『本当は、あなたはついでに過ぎなかったんです。僕の求める能力はそう――あなたの娘さんの持つような稀有の能力なんです。何時でも手に入れられると楽観してたけど…体裁を構いすぎました。あ、沙凪さんはまだお帰りになっていないんですか?…あぁそうでした、今頃彼女達は僕の準備した落とし穴に落下中でした』 「べらべらと煩いわ。結論をさっさと言いなさい」 ――落とし穴だと?娘に何をしたというのだ…。 蛍子は眉間を寄せる。 『だから言ったでしょう。僕が求めるのは、あなたの娘さんの持つ稀有の能力なんです』 それになぜ、沙凪の"その事"について知っているのか。 知っているのは沙凪自身と自分と、オウルだけの筈なのだ。 何者なんだ、こいつは―― 強い語調の裏で、蛍子は激しく揺れていた。 『僕はただ純粋な探究心でレアアイテムを集めていたに過ぎないんです。ただそれだけなんですよ。でもそれにはあなた方が邪魔になっているのだとふと気づきまして。なので、先に消えてもらうことにしました』 それはあっけらかんとしていて、観察日記を音読するときのような、実に愉しげな口調だった。 "レアアイテム" ごく近い過去に耳にしたフレーズだ。 いつ、どこで聞いた…? 彼女はすぅ、と目を細めて静かに記憶を手繰り寄せていく。 受話器を耳にあてがったまま黙している蛍子の奥歯は、通話口を通じて相手にまで伝わっているのではないかという程、大きく軋み続けている。 『さっきまで苦しそうにしてらっしゃいましたが、もう大丈夫なんですか?ねえ――』 ぴたり、 彼女は歯軋りを止めた。 「――お母さん?」 最後に聞こえた声。それは受話器を耳にしたままの彼女のすぐ真後ろから聞こえてきた。 先程まで間違いなく電波を通じて会話していたはずなのに、唐突にその声は彼女の背後からも発せられたのだ。 素早く振り返った先の、彼女が佇む玄関先の、電話の前に立つ蛍子の背後にいた、その人物は―― 「があッ!」 蛍子は鋭く息を吐き出すと、携帯電話を手にした姿勢のまま背後に立つその人物めがけて、向き直りざまに右腕で宙を袈裟斬りにした。 同時に腕から造りだされた"それ"が相手に着弾した瞬間、どうんっ!という物凄い爆音が響き渡り、むっとした熱気が一瞬で辺りを包みこむ。 玄関口を中心に廊下全体がわずかに揺らいだような振動がし、ぶしゃあっ!という何かの焦げるような耳障りな音が空気を割いた。 [前][次] |