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――これは仕方のない事なんだろうなあ、と思う。


まだじくじくと痛みを残す後頭部に指でそっと触れると、何だかぶよぶよとしていてしかも腫れていて、その感触は沙凪の気分を更に低いところまで滅入らせた。

一歩足を踏み出す度に、ズキズキとした痛みが一瞬ではあるものの、頭の芯を貫くようにして走る。


「うう…」


何だか訳もなく切なくなってきて、泣きたい衝動に駆られた沙凪は顔をうつむかせた。


「あんな事があった後じゃ普通落ち着かねえだろ。気分転換すっか?」

「…え」


歩が親指で指した先にあったのは――スロット店。
振り返ってひとしきり固まった沙凪は、いま制服姿ですので…と口端をひきつらせながら丁重にお断りしたのだった。

ぞんざいな口調ではあったが、沙凪を見下ろす歩の目には労りがあった。
資材室で強打した後頭部が、事情聴取を終えた途端に思い出したかのように痛みだしたのを気にしているようだった。


「打ち所がな…どっか病院寄るか」

「ん…うん」


――二人は今、風城学園から二駅程先の隣街にある、少し寂れた感のある商店街にいる。

今日ばかりは早く帰宅して安静にした方がいいんじゃないかという歩を押し切り、沙凪のバイト先である画廊に向かっているところだった。

暦は秋を呈し、少しばかり日の目が短くなってきていたので、もうアスファルトと空が似た色を帯び始める時分となってしまった。
立ち止まった二人の横で、ぱた、と街灯が白く灯る。


「じゃ、適当に時間潰してっから」


沙凪の通う画廊から百メートル程度を隔てた外科医院の前で歩が立ち止まった。
そこからは、じっと目を凝らせば画廊の看板が小さく見える。

病院前の電柱にもたれるようにしてしゃがみ込んだ歩の手には、いつの間に取り出したのか、既にメンソールが握られていた。


「なんかごめんね…こんなトコまで送って貰っちゃってるのに…」

「ああ、今日はオメーの家まで送るつもりだったから構わねぇよ。放っといたら車に轢かれそーだし」


ジッポの蓋をチャカチャカと弄びながら沙凪を見上げ、どーせあたし暇だし、と歩は付け足した。



――これまでの道中、やや足元のおぼつかない沙凪がふらつくと、歩がすかさず襟元を摘んで引き寄せてくれたりしていた。

何だか猫のような扱いだと思ったりしながらも、不思議と悪い気はしなかった。

歩は自分と同じ「女」という分類なのだとは思えないくらい腕力も上背もある。

資材室で垣間見た体捌きなんて、男より強いんじゃないかと思わされてしまったほどだ。

まだ鮮明に記憶に残しているその情景を思い出した沙凪に、不意に妙な気恥ずかしさがこみあげた。

正体不明の動揺に、何だか歩と目を合わせずらくなった沙凪は、うつむきがちになりながら病院の自動ドアをくぐっていった。



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